2021.01.21
# 物性

人類の物質観を革新する「トポロジカル物質」、そのカギは時間や空間の反転にあり

バーチャル空間で物質を観る
長谷川 修司

トポロジカル物質と通常物質を接触させると

トポロジカル物質とは何か、それを知るには、それにトポロジカル物質でない通常の物質を接触させてつなげてみるといいでしょう。そうすると外見上はつながっている2つの異なる物質ですが、それぞれ「別世界の物質」(つまりトポロジーの違う物質)なので、その2つは、ある意味、素直にはつながらないのです。

そのため、その境目、つまり界面には、2つの別世界を橋渡しする「細い通路」とでも呼ぶべき状態、「トポロジカル表面状態」ができます。その状態は、物質を焼こうが煮ようが(温度を上げる)、形を変えようが、不純物が混入しようが、頑強に存在して消えることはないのです。その状態を壊そうとしても、トポロジカル表面状態はスルッと逃げて隣の場所に引っ越してしまって存在し続けるのです。

2つの別世界は決して交じり合うことがないので、その橋渡しをするトポロジカル表面状態は常に存在するためです。「この世(此岸)」と「あの世(彼岸)」との間に「三途の川」が横たわっているような光景を想像してみるといいかもしれません(と言っても、三途の川を見た人はいないでしょうが)。トポロジカル物質は「あの世」の物質、とは言い過ぎでしょうか。

もっと現実的な例えとして、左右の入れ替わった2つの世界の境界がよく持ち出されます。

たとえば、日本では車は道路の左側を通行しますが、韓国では右側通行です。ですので、もし九州から韓国に対馬海峡を横断する海上ハイウェイを作って道路で両国をつなげようとすると、途中で左右を入れ替えなければなりません。そのためには、図1のように、いちど左右の路線を交差させて入れ替えるしかありません。

図1

実際に、このことがタイとラオスの国境で起こっているといいます。左側通行の国タイと右側通行の国ラオスとの国境では、立体交差ではなく、普通の交差点で左右を入れ替えているそうです。

交通ルールで左右が逆の2つの国が接する境界には、このようなことが必ず起こりますし、それはどちらかの国全体の交通ルールを変更しなければなくなりません。物質の端にできるトポロジカル表面状態もそのようなものです。物質のなかが、外の世界と「左右逆」ならば、物質の表面や普通の物質との境界には、道路の左右の交差に相当する何か異常な状態が出てきます。それがトポロジカル表面状態です。

このような「道路の交差」は、一方の国全体での交通ルールを逆側通行に変更しない限り必ず起こることで、国境付近だけの工夫でなんとか回避できるような問題ではありません。たとえば国境を移動させたり国境線の形を変えたりしても、国境では必ず「道路の交差」が起こります。

つまり、内部の事情の違いが、「端」に出てきて、内部の事情が変わらない限り「端」で何か異常なことが起こります。それぞれの国のなかで暮らしているのであれば何も不自由や不思議さを感じないものですが、国境に来て外国と接してみると、自分の国の特殊性を初めて認識することになります。

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