「なぜ顔は前を向いている?」生物進化を"口"の発達から考えてみた

「食う」機能のみならず、審美的効果も
ごはんをお腹いっぱい食べたい!——太古の昔から、生物は命をつなぐエネルギーの吸収が最重要課題でした。膜を通して吸収するより効率良い吸収方法、つまり体の前端に取り入れ口を設けたのです。この時、「顔」の歴史は幕を開けたのでした。

やがて、入れるばかりの穴は、咀嚼機能を獲得し、食性の変化とともに、「顔」として複雑に変化していきました。今回は、顔のオリジナル構造ともいえる口を中心に、「顔」のできる過程をみていきたいと思います。

あなたの顔は、環境に適応するための努力の結晶

あなたが鏡を見ると、あなたの顔が見える。それはあなたが他人に見せている、あなた自身の姿にほかならない。では、あなたの顔はどこからやってきたのだろう。そしてこれから、どこへ行くのだろう。

そもそも動物の顔は、食べるためにできあがった。やがて、外界のさまざまな刺激を感知するようになり、さらには情報を発信するように進化してきた。顔には、さまざまな動物がそれぞれの環境に適応するために努力してきた工夫が満載されている。だからあなたの顔は、動物進化が長い時間をかけて生みだした、究極の傑作なのだ。

【図】さまざまな物質とエネルギーが出入りする顔さまざまな物質とエネルギーが出入りする顔。また、情報も発信する。器官ごとにその種類を示した

顔には、身体の部品(器官)のうち眼、鼻、口、耳などが集まっている。しかし、なぜこれらが1ヵ所に集まっているのか、そしてその領域を我々がなぜ顔と見なすのかはわからない。そこで、そもそも顔はどのような動物にあるのかを考えてみよう。

顔と認識できる条件とは

イヌやネコなどの哺乳類、ツバメやフクロウなどの鳥類、ワニやヘビなどの爬虫類、カエルやサンショウウオのような両生類に顔があるのは、疑いがない。そこには、我々の顔と同じように眼、鼻、口、耳が集まっている。

鳥類、爬虫類、両生類の耳は、「耳介」がないので見つけにくいが、鼓膜が皮膚に露出しているのでそれとわかる。

魚類では、口と眼はすぐにわかっても目立った鼻と耳はない。それにもかかわらず、我々はそれを顔と見なしている。

【写真】さまざまな生物の顔さまざまな生物の顔。共通の基盤とは? photos by gettyimages

これらの顔はいずれも、左右対称という「体制」(身体の基本デザイン)を持ち、その正中部に前から後ろに連なる「脊椎」によって構成された「脊柱」を持つ脊椎動物なので、共通の基盤に立っていると理解してよい。では、節足動物ではどうだろうか?

脊椎動物とは体制の違うカブトムシやエビ、あるいはムカデのような節足動物にも顔がある。ただし、口と眼はあるが、鼻と耳は別のところにある。匂いを嗅ぐ鼻の役割は触角に、呼吸器としての鼻の役割は胸部から腹部の体節ごとの気門に、そして耳の役割は脚にある。

【写真】節足動物の顔節足動物の顔。左からムカデ、エビ、テントウムシ photo by gettyimages

これらの動物の顔はそれなりの存在感を持っているが、脊椎動物の顔と相同(起源を同じくする)と見なしてよいかどうかは難しい。頭部を形成するという大きな意味では相同だが、個別の部品に関しては相同とはいえないからだ。

節足動物も、左右相称と分節構造という体制を持ち、前後の区別があることにおいては脊椎動物と同じである。では、前後の区別さえない、さらに原始的な動物ではどうだろうか?

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