山田洋次監督の「熱量」のすごさ

読み聞かせでは「作者の思いをできるだけ正確に伝える」ことに注力する寺島さんが、自身の主戦場である芝居の世界で、作り手の思いを役者に伝えるというものすごい熱量を、間近で感じた現場があった。4月16日公開の映画『キネマの神様』。山田監督が志村けんさんに主演のゴウ役をオファーしていたという、あの作品である。撮影現場で、誰よりもものすごい熱量を発していたのは、他ならぬ山田洋次監督だった。

「志村さんのことは、それはそれは残念でしたけど、代わりに現代のゴウを演じられた沢田研二さんも、妻役の宮本信子さんも素晴らしかったです。私はお二人の娘役だったので、本当に家族のような楽しい時間を過ごすことができました。何より山田監督がお元気で、話には聞いていましたけれど、あの『画(え)』に対するこだわりの強さには驚きました! ラッシュをすぐご覧になって、気に入らなかったらすぐ撮り直し。あるとき、撮影が終わった後にすごく綺麗な太陽が見られた日があって、監督は後になってもずーっと、『あの太陽がどうして僕は待てなかったんだろう? 僕も衰えたもんだ』って言うんです。とにかく、バイタリティがすごい!」

監督の話をするときの寺島さんは、“読み聞かせ”について語るときとは違って、女優の顔になる。母の顔や娘の顔、妻の顔ではない、一つの煌めきに魅了されている職人の顔。

撮影/山本倫子

「山田監督は、沢田さんや宮本さんのような人にも、『そういう喋り方じゃないんだよ』とダメ出しをされる。そこには、常にピュアな厳しさと真っ直ぐな優しさが潜んでいて、すべての視線や発言が映画への愛情につながっているんです。そのことに本当に痺れました。私ももっと年齢を重ねたときに、『そうじゃない』って言ってくれる監督さんと仕事がしたいし、監督には、是非とも長生きして、もっともっと映画を撮っていただきたい。不思議だったのは、ゴウの若い頃を演じた菅田将暉くんとか、北川景子さんとか、永野芽郁ちゃんとか、若い人たちの演出をするときは、監督自身も若返っている感じがしたんです。常に若い人に注目して、映画を撮ることを心から楽しめるのは、気持ちが若い証拠だし、素晴らしいことだなぁと」

映画を撮るときの山田監督と、役を演じるときの寺島さん、読み聞かせをするときの寺島さん。何かに夢中になっているとき、無意識のうちに人は輝く。それぞれの物語に明るい未来を願い、自分にできることは何かを模索しながら、人の思いは受け継がれていく。

撮影/山本倫子
てらじま・しのぶ 女優。1972年12月28日生まれ、京都市出身。文学座退団後、舞台や映画、ドラマに出演。2003年『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で国内外の女優賞を受賞。2010年に映画『キャタピラー』で主演を務め、第60回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞にあたる銀熊賞を受賞し、『OHLUCY!』(18)ではインディペンデント・スピリット賞主演女優賞にノミネートされた。出演近作に映画『ヤクザと家族 The Family』(公開中)、待機作には映画『キネマの神様』(4/16公開予定)がある。