旅作家・歩りえこさんによるFRaU web連載「世界94カ国で出会った男たち」(毎月2回更新)。この連載では、約2年をかけてほぼ世界一周した様子を綴った大ヒットエッセイ『ブラを捨て旅に出よう』の中で綴られていないエピソードを披露してもらっています。

今回は、盗難に遭い、一文無しになってしまったイタリアでの出来事を振り返ります。財布、カメラ、パスポートなど全てを失ってしまったけれど……その災難により、人の優しさに触れた新しい出会いも。海外で盗難やスリに遭わないためのコツとともにお伝えします。

※今回掲載するイタリアの写真は歩さんが盗難に遭った当時に撮影したものではなく、それから8年後の訪問時に撮影した写真です。

歩さんの今までの連載はこちら▶︎

バス乗車時に、荷物で揉めていると…

イタリアで「花の都」と呼ばれるフィレンツェは、絵画のような美しさが印象的な街だ。ミラノから南部へと移動しながらフィレンツェの観光を終え、次の目的地であるシエナに向かおうと、フィレンツェのバスターミナルで長距離バスを待っていた。

暫くしてバスが到着し、バックパックをバスの荷物入れに押しこんでいたら、一人のイタリア人男性がなぜか私のバックパックをいきなり取り出した。パンパン状態なところを苦労して押し込んだのに……。

男は早口のイタリア語で喋っているが、何を言っているのかさっぱりわからず、無視して再度荷物を詰め直した。すると、男はまた私の荷物を取り出す。急がないとバスが出発してしまうのに、一体どういうつもり?

苛立ちながら三度目を試みたが、またもや荷物を取り出す男。さすがに堪忍袋の緒がブチンと切れた。エンジン音をブンブン鳴らし、今にも出発しそうなバス。どうやら男は「これは自分の荷物だ」と言い張っている様子。正真正銘、私の荷物なのにとんだ言いがかりだ。

口論になり、全神経が男に対して向いた瞬間、別の男が背後から私のショルダーバッグをひったくった。一瞬の出来事ですぐに動けず、追いかけようとした時にはもうバスターミナルの出口まで犯人が逃げ去った後だった。口論していたはずの男もいつの間にかいなくなっている。

男たちは完全にグルで、実に見事な連携プレーだ。華麗なるひったくりにやられた……。「助けて!泥棒!」と叫んでも、英語が通じていないのか周りの人は皆無反応。バスの窓際座席に座っていた夫婦は驚きもせずに「イタリアではよくあることさ」と窓から一言。そんな……パスポート、お金、カメラ、旅に必要な何もかもを一瞬で失ってしまった。一体これからどうすればいいの?

映画『ローマの休日』でお馴染みのスペイン広場。写真提供/歩りえこ