新型コロナ感染で重症化する人としない人の違いは何から来る?

科学者たちの闘いの最前線に迫る
NHKスペシャル取材班

それではどんなDNAが感染症にかかわっているのか。そのひとつが、HLAの遺伝子だ。遺伝子とは、いわばDNAという文字で記された文章のこと。HLA遺伝子は、HLAタンパク質(免疫細胞の手)を作る文章である。

地域ごとに異なる感染症に対応する遺伝子の戦略

HLAはウイルスや細菌などの異物の断片だけでなく、自分自身の細胞も掴んで、獲得免疫の部隊に示し、「これは自分の細胞だから攻撃してはならない」というメッセージを伝える。免疫は、ひとつひとつの細胞について、これは味方、あれは敵という具合に答え合わせをするシステムなのだ。HLAはその要である。

 

ひとりが持っているHLAはわずか十数種類ほどしかない。しかし全人類ではなんと数万種類はあると考えられている。個人レベルでは少ないのに、全人類レベルではこれほど多いのは、地域ごとに異なる感染症が流行してきたからだ。それに対応するため、ヒトはHLAの種類を増やしてきた。

では民族集団ごとに、HLAと新型コロナウイルスとの結合のしやすさ、つまり、「手」がどのくらい新型コロナウイルスを掴みやすいかに違いはあるのか。

たとえばスイスのジュネーブ大学、ドイツのマックスプランク研究所、オーストラリアのアデレード大学の共同研究チームが5月に発表した論文によれば、アメリカ先住民たちが、新型コロナウイルスをはじめ、インフルエンザウイルス、HIV、ほかのコロナウイルスと強く結合するHLAを多く持っていたという。

それならば、新型コロナウイルスに対するアメリカ先住民の感染率や致死率は低そうなものだが、現実にはそうではなく、むしろ全米平均よりも高く、彼らはウイルスに苦しめられている。論文の著者らも、「HLAは免疫応答に重要な役割を果たすが、ウイルスへの抵抗性を示す唯一の要因ではない。アメリカの先住民たちは、ほかの人たち同様に明らかに、新型コロナウイルスの影響を受けていることからもそれがわかる」と述べている。

HLAが敵と味方を区別して免疫細胞の部隊が効果的に働くのに役立つのは確かだが、ここまで述べてきたように、免疫ネットワークの反応の仕方はさまざまだ。ある部分が強くても、別の部分に弱みがあれば、新型コロナウイルスにうまく対処できないかもしれないのだ。

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