意外と知らない…『転生したらスライムだった件』が常識を超えて「爆発的ヒット」したワケ

ラノベ業界の地殻変動を象徴する作品
飯田 一史 プロフィール

丸山くがね『オーバーロード』の主人公は骸骨姿のマジックキャスターへと転生するが、同作から影響があるというだけあって、『転スラ』は、女子と話すのが苦手なゼネコン勤務の37歳男性が突然刺されて死ぬと異世界でスライムに転生していた、という導入部こそ色モノ的ではある(なろう系では蜘蛛や剣などに転生するものもゴロゴロしているため、スライム程度ではもはや「変わり種」とは思えなくなっているが、連載開始当時にはインパクトがあったという)。

しかし、主人公であるスライムのリムルが食べた相手の能力を獲得するという「捕食者スキル」を持っているおかげで、どんどん強くなり、さまざまな能力を獲得していく気持ちよさが序盤にまずある。

次いで、リムルが村落で集団生活をしていたゴブリンたちを配下に収めたことを皮切りに、ドワーフなどさまざまな種族を従えるようになり、コミュニティを拡張していくのだが、そこで必然的に生じる集団戦の駆け引きのおもしろさがある。

そして、ドワーフやゴブリンには「排泄物処理施設も必要になる」との考えから、なんと下水の管理工事を手がけ、手始めに区画整理をする……といった、著者のゼネコンでの現場監督としての勤務経験を存分に活かした描写のおもしろさもある。インフラの重要性、工事・事業を進めるまえの事前の計画と住民・スタッフへの根回しの重要性などのリアリティ溢れる視点や、言うことを聞く面々ばかりではない集団をいかにマネジメントしていくかといった点に関する、ご都合すぎない視点からの記述には、ある種の経済小説に通じる妙味がある。

 

「なろう」の書き手も、よほど本が売れた人を除けば兼業作家が大半を占めている(伏瀬もここまでのヒットになる以前はゼネコン勤務と兼業だった)。

したがって、書き手が執筆業以外の仕事から得たものが反映された作品が少なくない。

たとえば『魔法科高校の劣等生』では魔法というファンタジー的なものが設計支援ツールCADという工学的なものを使って制御するという設定になっているし、天酒之瓢『ナイツ&マジック』はファンタジー世界で巨大ロボットを設計・操縦する話だが、この起動にプログラム言語と同型のものが用いられているため、前世がエンジニアだった主人公は圧倒的な適性を見せる、といったものだ。

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