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福島原発で亡くなった男性の霊が訴えた、残された家族への思い

津波が生んだ霊体験⑬
宮城県の古刹・通大寺では、人間に「憑依」した死者を成仏させる「除霊」の儀式が今も行われている。30人以上の霊に「憑依」された高村英さんと、その霊を成仏させた通大寺の金田諦應住職。二人に取材を続けてきたノンフィクション作家の奥野修司氏が、高村さんの体験を聞く。最終回の今回は、福島原発で亡くなったという男性の霊をめぐるエピソードです。

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これまでとは違う霊

これまで高村さんに憑依した12体の霊について述べてきたが、これは彼女に憑依した霊の一部であって、実際はその倍以上の霊が彼女に憑依している。

その大半は金田住職の手で除霊してもらったのだが、実のところ、金田住職の手を借りなければ除霊できなかったのは10ヵ月ほどの期間だけだった。

もともと憑依されること自体は彼女にとって珍しいことではなかったらしく、それ以前の彼女なら、憑依しようとする霊を追い返したりしてコントロールができていた。

たとえ体に入って来たとしても、この時のように彼女の魂が外に出されることもなく共存できたのである。また、時間はかかるが、自分でお経を読んだりして、憑依した霊を追い出すこともできた。イニシアチブは常に彼女が握っていたのだ。

ところが、2012年6月から翌年の3月までは、全くコントロールができなくなってしまったのだ。その理由については彼女にもよく分からないのだが、いずれにしろ、除霊の儀式は終盤を迎えようとしていた。

数多くの霊を金田住職の儀式で「光の世界」に送り続けていると、慣れも手伝って次第に流れ作業のようになってくる。死者とリンクした時に、相変わらず死者が抱える恐怖感や絶望感が伝わってくることはつらかったが、最大の苦痛だった死を追体験することに抵抗がなくなっていた。

なにしろ、儀式を終えて焼香すると、「ハイハイ、じゃ、次行きますか」なんて軽口を叩くこともあって、金田住職が目を白黒させたこともある。ところが、今回はそれまでとは少し違っていたのだ。

霊の苦しみを追体験する

「今度の人、つらそうです」と、高村さんがため息をつく。

事前に彼女から、30代前後の男性で、防護服のような白い服を着て働いていたと聞かされていた金田住職は、「福島原発で働いている人?」と尋ねた。

通大寺・金田住職

「そこまで分かりませんが、訴えも激しくて苦しんでいます。大変そうです」

「分かった。ヨシ、やるべ」と住職が立ち上げると、傍にいた住職夫人は「英ちゃん、頑張ろうね!」と声をかけた。夫人にとって何がつらいかといえば、まだ20代半ばの高村さんが、悶絶しながら死んでいくところを見せられることだった。

毎回、可哀想で見ていられず、本当に死んでしまうんじゃないかとオロオロするほどだから、励まさずにはいられなかったのだろう。

「嫌だなあ……、じゃ、入れます」

突然、高村さんが四つん這いになって苦しみ始める。喉元を押さえて悶絶した。まるで窒息死するかのようだ。畳に左手の爪を立て、何度も引っかいた。

「苦しい~!」

体から絞り出すような声だった。その時、突然、寺の境内を強いつむじ風が通り抜けた。なにか不吉なことが起こりそうで、儀式を見守る人たちは思わず身震いする。

一瞬、本堂が静まって音が消えた。

「おえぇぇ~、吐きそうな感じ、だけど、なんか……うえぇ!」

どうも、いつもと様子が違うようだ。

「英ちゃん、吐きそうなのか? 溺死じゃないのか?」

金田住職も住職夫人も、何が起きたのか分からず困惑していた。

それを聞いてぼくも困惑した。いつもなら溺死であったり縊死であったり、霊の死を追体験するところから始まるのに、この時は死ぬ前から追体験が始まったのである。

すると高村さんは、「憑依はさせたのですが、まだ死んでいないので、私の意識が残っていたんです」と言った。もっとも高村さんによれば、金田住職の助けを借りる前はこれが普通だったという。

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