2014年、私の親友でもあるル・ジュンチャン博士が、「アジア白亜紀後期の長吻のティラノサウルス科という新しいクレード」と題した論文を発表しました。クレードとは共通の祖先を持つ生物の分類群のことで、この論文は、烏龍茶で有名な中国・福建省の西にある、江西省という場所で発見された「ピノキオ・レックス」についてまとめたものです。
ピノキオ・レックスとはユニークなニックネームですが、その名の通り長い鼻づら(吻部)を持っているのが特徴。時代は白亜紀後期マーストリヒチアン期です。
ここで、ピノキオ・レックスの話をする前に思い出して欲しいのが、この連載の第1回(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/77424)でご紹介した、モンゴルのアリオラムスです。おぼえていない人も多いでしょうが、2010年の段階ではティラノ軍団一軍メンバーだったのに、2013年のリスロナクスの論文によって二軍落ちしてしまった哀しいメンバーです。
このアリオラムスは同じモンゴルのスター軍団、タルボサウルスと同じ時代、同じ場所に棲んでいたようで、今日までにアリオラムス・レモツスとアリオラムス・アルタイの2種が発見されています。ところが、スターと同じ時代に棲息しながら、ほとんど注目されてこなかったのはなぜか?
理由はおそらく、発見されている化石の数でしょう。2種も見つかっているとはいえ、標本の数はたったの2つ。私もモンゴルで20年以上に渡って調査を行なってきましたが、アリオラムスの骨を見つけたことは一度もありません。ティラノ軍団の化石が数多く見つかっているエリアですから、これでは影が薄いのもしかたがないでしょう。
また、タルボサウルスに比べてアリオラムスの影が薄いもうひとつの理由として、外見がいかにも「弱そう」なことも大きいかもしれません。タルボサウルスがティラノサウルスと区別がつかないほどがっちりしているのに対し、アリオラムスはどこかひ弱に見えます。これも面長なせいかもしれません。
アリオラムスがこうした独特の外見をしている理由は、同時期に棲息したタルボサウルスとけんかにならないように、異なる獲物を襲って食べていたためと推測できます。つまり、生きのびるために必要な棲み分けだったのですね。
ただし、発見されたアリオラムスの標本はどちらも、大人になる前の亜成体であると主張する研究者も存在します。たとえばアリオラムス・アルタイの体重はたったの369キロしかありません。そのため、これはタルボサウルスの子供ではないかと考える人もいるほどです。子供だから面長に見えるだけで、成長すれば立派なタルボサウルスになるという考え方です。もし本当にそうなら、そもそもアリオラムスという恐竜は存在していないことになります。
そうした議論がおこなわれるなか、モンゴルのゴビ砂漠から2000キロほども離れた中国江西省で、「ピノキオ・レックス」ことキアンゾウサウルスが見つかりました。しかも、時代はタルボサウルスやアリオラムスと同じマーストリヒチアン期です。