近藤: はい。この数字を見て下さい。日本、中国、台湾の1月10日までの累計感染者数と死亡者数です。
H: 日本の感染者数は中国の約3倍! 死亡者もまもなく中国に追いついてしまう……。
近藤: もう一つ、次の数字を見て下さい。各々を平等にするため、人口100万人あたりに換算したものです。
H: こちらは、さらに悲惨な状況ですね。まさに、桁が違う……。中国や台湾と較べて、日本の対応は何がダメなんですか?
近藤: 一言で言うと、「ウイルスとの戦争」という概念が欠如していることです。政治家やマスコミの人と話していても、「コロナって、毎年冬にやって来るインフルエンザの変形みたいなものでしょう」と平然としている人が、少なからずいます。
H: リモートワークでほぼ引きこもっているとはいえ、私もどちらかというとそっちよりな気が……。
近藤: 昨年10月に、『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』(朝日新聞出版)という名著の邦訳版が出ました。この回顧録によると、2018年4月9日にトランプ大統領の安保担当補佐官になったボルトン氏が、就任して真っ先に手を付けたことは、約430人のメンバーからなるNSC(国家安全保障会議)の機構改革だったそうです。
具体的には、地球規模の公衆衛生を担当する部門と、大量破壊兵器(核兵器・生物兵器・化学兵器)を担当する部門とを、合併させて一つにした。そこには、ウイルスによるパンデミックは戦争だという概念があるからです。
H: ボルトンさん、そんなことやってたんですね。でも、日本にも首相官邸にNSCはあるけれども、大量破壊兵器は保有していないし、そもそも憲法9条で不戦の誓いをしているわけだから、「コロナ対策=戦争」などという概念は無理なんじゃないですか。
近藤: この概念を受け入れないと、国家も国民も大きな損失を被ることになります。演説の名手として知られ、安倍前首相が「最も尊敬する政治家」に挙げていたウインストン・チャーチル元英首相は、アドルフ・ヒトラー元独首相が台頭した1935年に、こんな演説をしています。
「対処可能だった時に事態は放置されていた。完全に手に負えなくなった今になって、その時なら効果があったかもしれない治療を施しても、もはや手遅れだ」
ナチス・ドイツとコロナウイルスはそっくりでしょう。
H: なるほど。それで、発生源となった中国では「コロナとの戦争」を戦ったということを、近藤さんは新著に書いたわけですね。
近藤: そうです。「戦争」だから、当然ながら個人のプライバシーよりも国家の意思を優先させる。そうした「スピードと強制力」によって、日本の26倍の国土に14億人も暮らしている世界一の人口大国で、コロナを撲滅していったわけです。