山中先生に新型コロナウイルスとどう戦えばよいか聞いてみた

免疫ネットワークの力を治療に生かす
山中 伸弥, 浅井 健博 プロフィール

科学者でさえ1ヵ月後が予想できないウイルス

世界トップクラスのウイルス学者でも、当時はこの事態を予想できなかったわけです。私ももちろん、まさかこんなことになるとは思いませんでした。しかし、帰国して、2月後半ごろから、新型コロナに関する論文を読むうちに、これは大変なことになると危機感を持ちました。これから年単位の長期的な対策が必要になることが、専門外の私にもわかった。ところが、周囲を見ると、1ヵ月か2ヵ月我慢すればいい、インフルエンザに比べればたいしたことがないという意見が大勢を占めていた。世間の雰囲気と、自分の危機感のギャップを感じて、居ても立ってもいられず、ホームページを立ち上げて、発信しはじめたんです。

写真提供/NHK
 

――今ではマスクの着用が、各国で推奨されていますが、6月に入るまで世界保健機関(WHO)も、症状のない人がマスクをすることは推奨しないと言っていましたね。

先に触れた友人のウイルス学者も2月の講演で、医療用のN95と呼ばれるマスク以外、通常のマスクはフィルターの網目の大きさがウイルスよりも大きいから、感染を防ぐ効果は期待できないと言っていました。マスクの効果については多くの科学者が、誤った見解を持ち、人々をミスリードしました。今でも、この感染症が今後どうなるのか予想ができません。1ヵ月後どころか、1週間後の感染者がどれくらい増減するのかもわからない。

――新型コロナウイルスの感染予想をするのはなぜ難しいんですか?

その一因は、人の行動がかかわることだと思います。ウイルスの振る舞いだけで将来が決まるのであれば、ウイルスの遺伝子を解析するなどすれば、かなり正確に将来を予想できるでしょう。しかし、感染症の将来は、ウイルスと人の相互関係で決まります。人は移動し、ほかの人と会い、コミュニケーションをとります。どれだけ移動するかも、何人と会うかも、それこそ人それぞれ。人の行動を予想することは難しく、したがって人を介して感染するウイルスの広がりも予測するのが難しいのです。

――欧米に比べれば、日本の感染者や重症化する人の割合はこれまで低く抑えられてきました。山中さんはその要因を「ファクターX」と名づけ、ファクターXを解明することで、感染拡大や重症化の抑制につなげようと呼びかけられました。今、ファクターXについてどんなことがわかっていますか?

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