妻と娘がいなくなって情報を集め続けた

妻と娘がいなくなったあと、僕は妻の身に何が起きていたのか、「事実」を知らずにはいられなかった。自分の置かれた状況を、少しでも客観的に「理解」したかった。そうでなければこの現実に押しつぶされそうだった。

気づいたら、マルチ商法に関するネットの記事や書き込みを検索して情報を集めていた。ツイッターで同じような状況に陥っている人の声を探した。マルチ商法の会員たちが集うフェイスブック・コミュニティーに投稿される言葉を見て、彼らに共通する思考や行動様式を調べた。マルチ商法会員の近所の住人に聞き込みをした。会員たちがよく打合せや勧誘をしているカフェで張り込みをして、会話をメモしたりもした。

なぜマルチにハマったのか、なぜ家庭は崩壊したのか。その理由を客観的に考えたくて、同じような状況の声を探した(写真はイメージです)Photo by iStock

自分の心情をツイッターで投稿することもはじめた。すると、同じような境遇にいる人からの声が集まりはじめた。その声を記録として残さなければいけないと思い、その一部はnote で記事にして公開した。

5年間、そうした活動を続けて、マルチ商法で何かしらの問題を抱えているのは僕だけではなくたくさんいること。みんな、誰にも話せずに忸怩たる想いを抱えて苦しんでいることが見えてきた。

しかし、何よりも伝えなければいけないと思ったのは、マルチ商法が「人対人」の閉じた世界で行われるため、そこで何が行われているのかが、外にいる人たちの目にはなかなか届かない構造になっていることだ。だからこそ、マルチ商法にまつわる出来事の数々は、これまで文字として記録に残されることがほとんどなかったのだと思う。

たとえば、マルチ商法に手を出すのは「お金に目がくらんだ若者」というイメージが強いかもしれない。実際、春になると様々な大学が学生に対して注意喚起をしている。しかし、あるマルチ商法企業の会員データを見ると、その幅は20代から高齢者までと広く、上記のようなイメージとは違っている。また、当事者からの声を集めてわかったことだが、職業も生活環境もバラバラだ。もちろんある程度のパターンはあるものの、相手に合わせて勧誘の手法も違ってくる。
 
ただ、マルチ商法で問題を抱えている人たちに、ひとつだけ共通していることがある。それはみな「まさか自分が、自分の身近な人が、マルチ商法にハマるなんて思いもしなかった」ということだ。これは、「誰しもがマルチ商法にハマる可能性がある」ことを示唆している。それは決して非日常的なことではなく、日常と背中合わせのことなのだ。