30万PVの大反響を呼んだnoteをもとに、自身が直面した体験、そして同じような苦しみを抱えた人たちの話を書き下ろし、一冊にまとめた書籍がズュータンさんの『妻がマルチ商法にハマって家庭崩壊した僕の話。』だ。いったいマルチ商法とは何か、そこにハマるとはどういうことなのかをリアルに伝えてくれる本書の発売を記念して、一部抜粋の上、ご紹介する。

僕の家庭は崩壊した

窓から射し込む陽の光と、からだに温かな重みを感じて、眠りから目を覚ます。幼稚園の制服に着替えた娘が覆いかぶさり、ケラケラと笑いながら僕の顔を覗き込んでいる。僕は毎朝そうやって目を覚ましていた。
「行ってらっしゃい」
遅く起きた僕は、娘を電動自転車に乗せて幼稚園へと送っていく妻の姿を見送る。

湘南新宿ラインの、とある駅から歩いて25分かかる山の上に、真っ白い狭小邸宅が建っている。そこが妻と娘と僕が暮らす家だった。
35年の住宅ローンを組んで新築の家を建てることにためらいはあったが、妻と娘の「海の近くにおうちがほしい」という願いをかなえてあげたかった。

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ただひとつ、当時の僕には気にかかっていることがあった。妻がマルチ商法の製品を愛用しはじめていたことだ。
妻の瞳はいつも慈愛に満ちていたが、マルチ商法をはじめてからは感情のない冷たいガラス玉のように見えた。たしかに妻はそこにいるのだが、僕の知っている妻ではなく、知らない誰かと暮らしているように感じられた。

やがて妻と娘は同じ会社の製品を愛用する仲間が乗ってきた車に迎えられ、去っていった。妻と娘の持ち物も家財道具もすべて一緒に運ばれていった。そして妻と娘は仲間の家で暮らしはじめた。将来に備えて貯めていたお金はすべてなくなっていた。僕はひとり家に取り残された。状況が理解できず、ただ混乱するばかりだった。

そうして僕の家庭は崩壊した。それから5年経つが妻とは一度も顔を合わせていない。
娘とは数回会ったきりだ。