自粛とステイホームがもはや「正義」ではないこれだけの理由

再度の緊急事態宣言への「傾向と対策」
與那覇 潤 プロフィール

年頭の時点の数字では、新型コロナ患者を受入可能な医療機関は全国に1700機関あるが、うち重症者(人工呼吸器等を使用した患者)を実際に受け入れているのは307機関に留まるという。いまある医療資源の範囲内でもきちんと調整すれば、患者がどこで感染しようが十分治療が受けられるはずなのに、「感染経路がわからない患者が多いので、減らしてくれないと対応できません」という理屈は、理解不能というしかない。

どうして、そんな事態になったのか。1か月前のことも忘れ去られる社会となったいま、1年前の問題の原点に立ち返ってまとめておくのも、読者に益することだと思う。

 

2020年2月にはまったく違った論調

私の手もとには、「21世紀の危機?」と題して新型肺炎(当初はこの呼称が一般的だった)を特集した『中央公論』の2020年4月号が残っている。注意が必要だが、雑誌の4月号は3月上旬に発売されるので、載っているのは主に2020年2月に書かれた論考だ。

ダイヤモンド・プリンセス号での感染者判明が注目された月だが、同月末の安倍晋三首相(当時)による全国一斉休校の要請が「過剰対応だ」と批判されたように、2020年2月にはコロナはまだ「一部の限られた問題」だった。大騒ぎになるのは3月からで、多くの月刊誌がまるごと「コロナ特集」を組む体制が常態化するのは、4月発売の5月号以降である。

横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセス号(2020年2月21日)〔PHOTO〕Gettyimaegs

比較的平静だった時期に編集されたこの「21世紀の危機?」特集に、現在も政府のコロナ分科会で委員を務める岡部信彦氏への聞き書き(「新興感染症への備えを強化せよ」)が載っている。そこでは以下のとおり、感染経路を追跡するのは感染者が海外からの帰国者等に限られるような、問題の最初期でのみ有効な対策であり、国内での感染が拡大した場合は放棄して対応を変えてゆくのが妥当であると、明快に説かれている。

誰から誰へ感染したという感染経路がたどれなくなったときは「鎖が切れた」と言いますが、この段階になったら、多くの感染者が出てくるはずなので、感染経路をきっちり調べることにエネルギーを注ぐよりも、軽症者と重症者の振り分けに重点をシフトしたほうがよくなります。(『中央公論』2020年4月号、49頁。強調は引用者)

関連記事