コロナ禍によって、あぶりだされた問題、余儀なくされた変化、あるいはまったく変わらなかったことも含めて、世の中を俯瞰してみると、ポストコロナの世界は、地球上の人々が同じ問題に対して「考える」きっかけを作りました。現代を生きる私たちに一石を投じたようにも思えるコロナの存在。さまざまな角度から世界を見つめる識者たちに、感じたことを語ってもらいました。

今回、お話を伺ったのは、農学博士の五箇公一さんとアーティストコレクティブ「Chim↑Pom」メンバーのエリイさん。自粛期間に浮き彫りになった人間のエゴや、持続可能な未来のために大切なことなどを語ってくださいました。

●お話を伺ったのは…
五箇公一(ごか・こういち)

国立環境研究所主席研究員。専門はダニ学、保全生態学、環境毒性学。新型コロナウイルス感染症発生以前から人間社会に拡大する「新興感染症」の危険性に警鐘を鳴らす。著書に『外来生物の生態学−進化する脅威とその対策』など多数。

エリイ
アーティストコレクティブChim↑Pomのメンバー。社会問題やそのシステムに対する独特で真摯な視点から現代のリアルを提示、都市論を展開。国際展やビエンナーレに参加し、プロジェクトベースの作品はグッゲンハイム美術館などにコレクションされる。

「助け合う」という
ヒューマニティがあったから
人間は地球で生き残ってこられた

ーー専門家として新型ウイルスの襲来に警鐘を鳴らしてきた五箇公一先生と、都市をテーマに感染症を扱う作品などを発表し続けるアーティストコレクティブChim↑Pomのメンバー・エリイさん。立ち位置は違えど、同じ未来を見ているようなふたりの会話から、人とウイルス、その共存のヒントを探った。

五箇 私はこのコロナ騒動で、経済学者とか哲学者とかいろいろな分野の専門家と新型のウイルスと今後の対策みたいなことをテレビや雑誌で話してきましたけど、アーティストと対談というのは初めてだなぁ。エリイさんたちChim↑Pomは「都市」をテーマに表現活動をしていると伺いましたが、感染症にまつわる作品もあるんでしょ?

エリイ Chim↑Pomが初期に発表した作品が『スーパーラット』。これはネズミ駆除業者が作った造語で、都市圏で爆発的に増えているネズミの総称です。都市で生きるうちに毒への耐性を遺伝させながら進化していて、殺鼠剤でも死なない。それを東京の街で実際に捕獲して、その剥製をポケモンのピカチュウを模して黄色く着色、都市のジオラマの中に設置して展示したんです。それは都市に生きる中で良くも悪くも進化している人間の肖像でもあるなと思って。ネズミはペストの媒介者として忌み嫌われてきた存在。都市や資本主義社会について考えていくと、自然と疫病や感染症に行きつきます

五箇 すごく面白いなあ。感染症というのは本来人間から遠く離れた場所にあったウイルスや菌が人間社会に入り込んで発生しますが、そのきっかけの多くは資本主義やグローバリゼーションによって人間が自然に近づきすぎることです。都市を突き詰めていくと感染症に行きつくというのはその通り

エリイ それは東京だけじゃなくて、例えば2019年にイギリスのマンチェスター国際芸術祭で発表した「A Drunk Pandemic」という作品は19世紀に蔓延したコレラから着想を得ました。マンチェスターは産業革命発祥の地ですが、当時の急激な都市化によって下水道の整備が追いつかず衛生状態は最悪。それがコレラの流行に拍車をかけたそうです

五箇 展示会場がマンチェスター中心部にある駅の地下トンネルだったとか。なぜその場所を選んだんですか?

エリイ 歴史や土地を調べていく過程で、そこが当時「不道徳の病」とされていたコレラで亡くなった大勢の人が埋葬されたマス・グレイブ(共同霊園)だったと知ったんです。今は巨大な地下空間やトンネルになっているのですが、そこにはきっとコレラが流行した当時の「空気」が残っている。その空間でビールを醸造し、コレラによって発達したインフラを可視化し、循環させていく作品を制作しました。

〔PHOTO〕iStock

五箇 科学者には絶対に思いつかないアプローチですね。

エリイ 会期中は会場の外に移動式トイレを設置し、その中にパブを開設。来場者はツアー形式でトンネル内の作品を見た後にビールを飲めました。私たちはビールを飲んだ来場者の尿をパブのトイレで収集し、水とセメントを混ぜてブリック(れんが)を製造。それをマンチェスターの街の欠けている部分にはめ込んでいきました。