トランプがいまだ「敗北宣言」をしない「シンプルな理由」

大統領選の結末やいかに?
木村 朗 プロフィール

国防権限法をめぐる隠された争点

もう一つの注目すべき大きな動きが、連邦議会上下両院での2021年度会計年度(2020年10月~2021年9月)の国防予算の大枠を決める総額7400億ドルの国防権限法(NDAA)案の採択とそれに対するトランプ大統領の拒否権行使である。同法案は、上下両院で大統領拒否権を覆すのに必要な3分の2以上の賛成を得て、12月11日に議会を通過している(ロイター「トランプ氏、米国防権限法案に拒否権 安保措置に欠くと批判」、中日新聞「トランプ氏が法案の拒否権行使 国防権限法、議会再可決へ」)。

トランプ大統領は12月23日、米下院と上院を圧倒的多数で通過したばかりの国防権限法に自身の公約であるアフガニスタンや欧州など外国駐留米軍の削減・撤退を制限する条項や、南北戦争時代の南部連合の指導者の名前を基地から削除する条項などを反対理由に挙げて拒否権を行使した。23日はトランプ氏が拒否権を行使するか署名するかの判断期限だった。

トランプ大統領はすでに12月17日、同法案は他国からの米軍撤退を認めないため拒否権を行使するとツイートしていた。この国防権限法案に関連して、共和党のリンジー・グレアム上院議員は、SNSへの投稿内容に対する運営各社の免責を終わらせるべきだというトランプ大統領の判断は正しいと述べている(BBC NEWS JAPAN「トランプ米大統領、国防権限法案への署名を拒否 米軍撤退の制限などに反発」)。

 

またトランプ大統領は、大手IT企業(ソーシャルメディア:SNS)に与えられている免責を廃止する案(米通信品位法第230条の廃止)を組み込むよう求めている。

このトランプ大統領が廃止を求める米通信品位法「第230条」は、大手IT企業が利用者の投稿内容について免責されると同時に「善意」に基づく過激な内容を制限する権利を与えるものである。

Facebook、Twitter、GoogleなどのSNS各社が同規定を利用して保守的な発言を抑圧・制限して「事実上の検閲」を行ってきたことに対する強い敵意・不信がその背景にある。

具体的には、不正選挙に言及したトランプ大統領の発言やそれに関連した情報をSNS各社が一方的に制限・削除してきた経緯があるからだ。

例えば、トランプ大統領は、今年(2020年)5月の時点で「郵送投票は実質的に不正なものにならないとは(絶対に!)言い切れない」とツイートしたのに対して、Twitterは、投稿の最後の部分に警告ラベルを付け、この主張は「根拠がない」とするウェブサイトへのリンクを貼っていた。

これに対して、トランプ大統領はすでに5月28日に、ソーシャルメディア事業者に認められている法的保護の一部を廃止し投稿内容の規制方法をめぐって法的責任を問えるようになる大統領令に署名して、ソーシャルメディアについて「野放しの権力」を有していると非難していた。

しかし、それ以降、今日まで巨大IT企業(SNS)を規制する実効的な法律案は成立しておらず、主流メディア・SNSとトランプ大統領の死闘はいまでも続いている(BBC NEWS JAPAN「トランプ氏、SNS企業の規制を狙う大統領令に署名」)。

トランプ大統領の拒否権発動で国防権限法案は上下両院に回され、そこで両院で3分の2以上の法案への賛成で法案は可決される。上下両院は月内の再可決を目指す構えで、それでトランプ大統領の拒否権が覆され、成立する可能性が高いとみられていた。

そして、1月1日に上下両院で3分の2以上の賛成で再可決され、この法案は成立した。大統領が拒否権を発動した法案が連保議会で再可決されて成立するのはトランプ政権では初の事例となった。

また、この国防権限法案とほぼ同じ時期に連邦議会に提出された「コロナ救済法案」にもトランプ大統領は拒否権を行使して直ちに修正案を送り返した。

この件についてトランプ大統領はTwitterで、「共和党議員は自滅したくなければ1人当たり2000ドルの支給をすぐに承認するのが正しくやるべきことだ。600ドルは十分ではない。そして、通信品位法230条を撤廃せよ。大手IT企業に国を盗まれるな。民党に大統領選挙を盗ませるな。タフになれ!」とつぶやいている。

このツイートからは、特定の付属層ではなく一般国民本位の予算案と大手IT企業による検閲禁止を含む自分の政策をこれからも(つまり、2期目になっても)一貫して追求するトランプ大統領の政権運営への並々ならぬ自信がうかがえる。

これについて、経済アナリストの藤原直哉氏がTwitterで、「トランプ大統領が修正して突き返したコロナ救済法案、議会は可決するようだ。もし可決されればこれ自体が革命だ。議会という利権屋集団が決めた予算を民衆をバックに付けた大統領が一方的に修正してそれを議会が認めるのだから」と語っているのが注目される。

しかし、このコロナ救済法案も交渉過程で通信品位法230条の撤廃が求められず、結局、1月1日に上下両院で3分の2以上の賛成で再可決され成立した。このことからも「ディープステート」側の抵抗・圧力がいかに大きいかが分かる。

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