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# 進化

人間の「話し言葉」、じつは「自然現象の音」をマネて進化していた…!

言語は自然を模倣している

サルはいかにして文明を獲得し、ヒトへと進化したのか? 「聴覚」を糸口に人類史上最大の謎に迫った話題作『〈脳と文明〉の暗号』(マーク・チャンギージー著、中山宥訳)。著者が、「言語(話し言葉)は自然を模倣して出来上がった」という新事実を論証する。

 

自然界に存在する音を構成する三つの要素

自然界にはありとあらゆる種類の音が存在するものの、でたらめなようでいて、それなりに秩序立っている。わたしたちが耳にする出来事のほとんどは、たった三つの構成要素で成り立っている──すなわち、“ぶつかる”“ すべる”“ 鳴る”。

■ぶつかる

“ぶつかる”は、固体と固体が衝突したときに起こる。たとえば、あなたが歩くと、足と地面がぶつかる。ノックすると、拳とドアがぶつかる。テニスは、ぶつかることを基本にしたスポーツだ。ボールがラケットにぶつかり、ネットにぶつかり、地面にぶつかる。物と物がぶつかると、それぞれ特有の音が生じる。ぶつかった瞬間、突然、爆発的なエネルギーが発生して、音になる。

■すべる

“すべる”も、固体と固体のあいだで起こりがちな物理的現象だ。二つの表面がある程度長い時間こすれ合うことをさす。あなたが指でこの本の文章をなぞれば、指が紙の上を“すべる”。床に置いてある箱を押すと、“すべる”。この“すべる”ときに生じる音は、“ぶつかる”場合と本質が異なっている。

“ぶつかる”のような瞬間的なエネルギー発生と違い、“すべる”の場合、あまり突然ではなく、「シャー」というホワイトノイズに似た音がやや長めに続く。“ぶつかる”にくらべて、起こる頻度は低い。

なにしろ第一に、二つの表面がしばらくこすれ合うという、特別な状況が必要になる。“ぶつかる”のほうは、知覚科学者にいわせれば「一般的」であり、とくに珍しい条件がそろわなくてもしょっちゅう発生する。

第二に、“すべる”場合、たいてい、摩擦のせいでその事象のエネルギーが大幅に失われるので、一連の出来事がそこで終わってしまうことが多い。第三に、“ぶつかる”は連続して繰り返される──たとえば、ピンポン球が何度も、だんだん小さく跳ねるなど──可能性がある(すぐあとで述べるとおり、“鳴る”も伴う)のに対し、はっきりとした“すべる”現象が延々と繰り返されることは考えにくい。

もし繰り返されるとすれば、“すべる”現象がいったん止まって、次の“すべる”現象が始まるという順序になるだろうが、そんなふうにいったん止まるには、いずれにしろ、“ぶつかる”現象がからんでくるはずだ。