仁川花恵さん(仮名・46歳)は30歳のとき、元夫からおよそ2000万円の借金を背負わされる形で離婚した。起業に失敗し、海外に行った元夫の代わりに、借金取りに追われることとなったのだ。
昼も夜も働いて借金を返すも、負債は一向に減らず、気持ちは追い込まれるばかり。電気が止まるガスが止まるの、極貧生活も味わった。それなのに16年を経たいま、花恵さんは、ひまわりのように明るく華やかな笑顔でこう言う。

「元夫に対して、怒りも恨みもまったくありません。結婚して子どもが生まれて、たしかに楽しい時代はあった。そのことには素直に感謝しているし、あの元夫だったから、私は強くなれて、いまこうして幸せに生きられていると思うんです」

夫婦はお互いに感謝と敬意があれば、その役割分担のやり方は夫婦の数だけあるのかもしれない。ただ、役割分担のベースにある「経済力」のバランスが崩れた時にどうなるか。そんな「経済力のバランス」が崩れたのち、自身が多額の借金を背負うことになった女性に上條まゆみさんがお話を伺った。
上條まゆみさん「子どものいる離婚」 いままでの連載はこちら

起業失敗で崩れた夫婦のバランス

離婚する夫婦のどちらか一方だけが悪いということはない、と花恵さんは言う。自分の場合も、起業の失敗で夫婦の力関係のバランスが崩れたことから夫婦仲がうまくいかなくなったと、花恵さんは解釈している。

19歳で8歳年上の元夫と結婚し、23歳で出産。当時、元夫は大企業勤めで、花恵さんは時々アルバイトをしながらのほぼ専業主婦。23区内の高級住宅街に家も購入し、大型犬と小型犬の2頭とともに、優雅な暮らしを満喫していた。

「元夫は頭がよくて仕事もできて、野望もあって、男らしく私を引っ張っていってくれる人だったから、私は心から尊敬していました。夫婦の力関係は100対0で元夫が強かったけど、私は元夫の敷いたレールに乗っかる人生を選んで、満足していたんです。仲もすごくよかった」

犬と赤ちゃんのいる優雅な暮らし。幸せをかみしめていた(写真の人物は本文と関係ありません) Photo by iStock 

結婚して8年目、元夫は勤めていた会社を辞めて起業した。花恵さんにはなんの相談もなかったが、花恵さん自身、そのことに不満も不安もなかった。
「そうなんだ、ってくらいですね。当時の私は元夫に守られて、安心しきって生きていたんですよ」

はじめのうち、事業はうまくまわった。経済的にいい思いもたくさんしたと言う。しかし、継続して利益を上げ続けることは難しく、数年経ったころから、元夫から花恵さんに渡される生活費が滞りがちになってきた。
「足りない」「どうするの?」「私が働きに出ようか?」。お金をめぐる会話が、家の中の空気をどんどん悪くしていく。

「元夫は、私が生活のために働きに出るのがすごくいやだった。でも、本当にお金がないから、反対することもできなかった。それまでの力関係は100対0で夫が強かったのに、どんどん私が強くなっていく。元夫にしてみたら『は? 誰に向かって意見してるんだ』ってことなんだろうけど、そこから挽回することもできなくて。すごい屈辱だったんでしょう」