2020年は想定外のコロナ禍に翻弄され、世の中の価値観や生活スタイルが一変した1年であった。そんな中で唯一、と言っていいほど勢いがあったのは「韓国エンタメ」だったのではないだろうか。
ステイホーム期間やリモートワークによる可処分時間の増加などがプラスに作用したのも事実。しかしそれ以外にも韓国エンタメ隆盛時代の裏にあるキーワードが見えてくる。昨年、特にヒットした3つのトピックから、その共通点と韓国エンタメの未来を占う。
あの「パラサイト」も2020年だったのか、そう思った人も少なくないだろう。韓国では2019年に公開されているが、日本での正式公開とアカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞し話題になったのは2020年の出来事だ。
外国語映画が作品賞を受賞するのは史上初のこと、それが「韓国映画」だったのは“たまたま”ではないと考える。「白すぎるオスカー」への反発や、ここ数年アカデミー会員の多国籍化が進んでいたことも追い風になったが、最大のポイントは「世界共通のテーマ」であり韓国人でなくても理解できる内容だ。
「パラサイト」の軸となった「格差社会」というテーマは国や言葉が違えども、他人事と思えぬ万国共通の課題であった。日本においても「一億総中流」はすでに過去の話、と肌で感じている人は多いのではないだろうか。
さらに映画の展開はアッといわせるどんでん返しが準備されているものの、基本的な流れや登場人物の発する言葉はシンプルでわかりやすい。韓国語のみで見た印象と日本語字幕付きで見た印象が変わらなかったので、「世界仕様の映画」になっていることを実感した。
ポン・ジュノ監督はこれまでもカンヌ国際映画祭のパルムドールなど数々の海外の映画賞を受賞しており、2013年に「スノーピアサー」でハリウッドデビューを果たしている。「パラサイト」のエグゼクティブ・プロデューサーでCJエンタテインメントの総括副会長イ・ミギョン氏も、90年代から韓国とハリウッドへの架け橋を作るためドリームワークス社に出資するなど、映画業界に貢献してきた人物だ。
「パラサイト」のオスカー受賞は、「世界市場で通用する韓国映画」を本気で目指してきた長年の努力と緻密な戦略の結果である。日本においても韓国映画興行収入歴代1位のヒットとなったが、もしコロナの流行が無ければさらに記録を伸ばしていたかもしれない。