問題は定男さんが日本へ帰国できないことです。そのため、筆者が定男さんの代わりに書類を入手することにしたのですが、委任状が必要です。もし、定男さんが日本在住なら実印を押印し、印鑑証明書を添付すれば問題ありません。押印した印影と印鑑証明書の印影を照合し、一致すれば本人だと証明することができます。
しかし、今回の場合、定男さんは海外在住で、すでに住民票を現地に移しています。印鑑証明書の住所は住民票の住所と同じです。そのため、定男さんの実印登録は移住と同時に抹消されています。つまり、海外在住の場合、日本で印鑑証明書を入手することはできません。どうしたら良いのでしょうか。
そこで、署名(サイン)証明という方法があります。これは定男さんが現地の大使館へ出向き、職員の面前で委任状へ署名すれば、本人だという証明書を発行してくれます。
まず筆者が定男さんへ委任状を送付します。そして定男さんは上記の方法で署名し、証明書付の委任状を筆者へ返送してくれました。この委任状を使うことで筆者は年金事務所で書類を手に入れることができたのです。その結果、年金分割によって定男さんの厚生年金は月7万円減り、妻は7万円増えることが分かりました。
そして定男さんは年金分割と日本に残しておいた300万円を渡すことを提示したところ、妻はあっさりと了承したそうです。定男さん夫婦の場合、裁判所を通さないので「協議離婚」です。協議離婚の場合、年金分割の合意は原則、公正証書という形で残す必要があります。なぜなら、年金事務所へ離婚後の戸籍謄本、公正証書を提出しなければならないからです。