ミリオンセラー連発編集者が読者の心を動かすために徹底していること

感動を生み出すヒントは些細な喜怒哀楽の中に
『漫画 君たちはどう生きるか』『嫌われる勇気』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』など、次々とミリオンセラーを生み出してきた編集者・柿内芳文氏。この人の手にかかれば、どんな本も読者を振り向かせ、目を離せないものになってしまう。そこには、柿内氏が愚直なまでに徹底していることがあった。「上阪徹のブックライター塾」で開催された公開インタビューの中で柿内氏がその秘密を語った。

心を動かし記憶に残る体験を作り出しているか

上阪:柿内さんは、ミリオンセラーを次々と出版されています。ヒット作にはどんな共通点があるとお考えですか。

柿内:それは、読み終えた後に読者の心を動かしているという点だと思います。例えば、今人気の映画『鬼滅の刃』や、クリストファー・ノーラン監督の新作『TENET』を見た人の第一声って、「感動した」とか「とにかくすごかった」といったものですよね。本も同じで、読後感が何より大切です。もし、本が情報を伝えるだけでいいなら、情報を箇条書きすればよくて、30ページもあれば足りてしまうでしょう。しかも、情報は消費されすぐに忘れられてしまいます。一方、心を動かす体験は人々の記憶に残り、語り続けられます。そういうものがクチコミで広がっていくと思っています。

対談する柿内芳文氏(左)、上阪徹氏(右)、2020年11月14日
 

上阪:情報を消費に終わらせずに、心を動かすものにできるかどうかということですね。

柿内:そうです。僕は「体験価値」と呼んでいます。必要なのは、感情を揺さぶるまでの道筋を、本を通して作ることです。それは、小見出しだったり、章ごとの中身や、その章の連なりだったりします。面白い話をただ50個並べたら面白いものができるかっていうと、そんなことはなく、情報の面白さと体験価値は全く別なんですよ。あえてつまらない話を入れることで、展開が際立つことさえあります。情報をどう組み立てたら感情移入しやすくなるのか、体験にまで昇華させられるのか。ここを徹底して考えています。