上阪:柿内さんは、ミリオンセラーを次々と出版されています。ヒット作にはどんな共通点があるとお考えですか。
柿内:それは、読み終えた後に読者の心を動かしているという点だと思います。例えば、今人気の映画『鬼滅の刃』や、クリストファー・ノーラン監督の新作『TENET』を見た人の第一声って、「感動した」とか「とにかくすごかった」といったものですよね。本も同じで、読後感が何より大切です。もし、本が情報を伝えるだけでいいなら、情報を箇条書きすればよくて、30ページもあれば足りてしまうでしょう。しかも、情報は消費されすぐに忘れられてしまいます。一方、心を動かす体験は人々の記憶に残り、語り続けられます。そういうものがクチコミで広がっていくと思っています。
上阪:情報を消費に終わらせずに、心を動かすものにできるかどうかということですね。
柿内:そうです。僕は「体験価値」と呼んでいます。必要なのは、感情を揺さぶるまでの道筋を、本を通して作ることです。それは、小見出しだったり、章ごとの中身や、その章の連なりだったりします。面白い話をただ50個並べたら面白いものができるかっていうと、そんなことはなく、情報の面白さと体験価値は全く別なんですよ。あえてつまらない話を入れることで、展開が際立つことさえあります。情報をどう組み立てたら感情移入しやすくなるのか、体験にまで昇華させられるのか。ここを徹底して考えています。