2014年に13年間のOL生活からライターへとキャリアチェンジ。2020年からデンマークに移住し、現在はフィンランドとデンマークを拠点とする小林香織さんの連載。今回は生殖補助医療の先進国デンマークにおける「出自を知る権利」を取材した。
12月4日、日本では、第三者から卵子や精子の提供を受けた生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確にする民法の特例法が、衆院本会議で可決、成立した。その内容は以下の通り。
・女性が自分以外の女性から卵子の提供を受けて出産した場合、出産した女性を子どもの「母」とする
・妻が夫の同意を得て、夫以外の精子の提供を受けて出産した場合、夫はその子が嫡出であることを否認できない
しかし、子ども本人へのドナー情報の開示手続きやドナー情報の保管は規定されず、未だ置き去りのまま。生殖補助医療の先進国では、子どもたちはどのように自分のアイデンティティを知るのだろうか。
第三者からの精子提供によって生まれたEmma Grønbæk(エマ・グレーンベック)さん、第三者から卵子・精子の提供を受け体外受精で娘を出産したKaren(カーン)さん(共にデンマーク人女性)への取材をもとに、現地の事例を伝えたい。
6年間の不妊治療の末、精子提供で生まれた
現在、24歳のエマさんは、父・母・双子の妹の5人家族。エマさんの両親は6年間もの不妊治療を経て、生殖補助医療によりエマさんを授かった。
「両親は可能な限りの不妊治療を試み、ほとんどの貯金を使いました。それでも子どもができず、最終的に父の顔に似た白人で青い目を持つドナーから精子提供を受け、ようやく奇跡が起こったのです。私を妊娠したとき、ふたりはそれはもう大喜びだったと聞いています」(エマさん)
デンマークでは、女性は40歳まで公的な病院での不妊治療が無料で受けられる。男性は生涯無料だ。とはいえ、公的な病院で受けられる治療は民間のクリニックに比べて限られたものだったため、エマさんの両親は民間のクリニックで多額の費用を支払い、あらゆる治療を施したのだ。
双子の妹たちは、エマさんとは異なり両親の遺伝子を受け継いでいる。妹たちとの関係について、エマさんは「生物学上は半分の姉妹ですが、私は半分だけだと感じたことは一度もありません」と語る。