2014年に13年間のOL生活からライターへとキャリアチェンジ。2020年からデンマークに移住、現在はデンマーク・フィンランドの2拠点生活を送る小林香織さんの連載。今回は、黒人差別に翻弄されたあるデンマーク人女性の半生から、差別の本質について問題提起する。

昨夏、世界中で報道されたBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)。黒人差別というとアメリカでの話題ばかりを耳にするが、幸せの国デンマークでも、かつては冷酷な黒人差別が存在していた。

デンマーク・コペンハーゲンで暮らすクリスティーネさん(56歳)は、父が黒人であったことから両親の交際が破談し、養護施設で育った。成長し社会に出てからも、現地人から陰湿な差別を受けた。

2020年現在、デンマークでは現地人による差別はゼロに等しい状態にまで改善されているが、クリスティーネさんの「黒人差別に翻弄された半生」を振り返りながら、差別の本質を考えてみたい。

黒人の血が混じった子どもは家族じゃない

クリスティーネさんの母は、17歳のとき軍人としてデンマークに滞在していた父と出会い、交際に発展。しかし、真剣に付き合いたいと願ったふたりの思いは、無残にも打ち砕かれた。

「母は、黒人の父と付き合うことを両親に激しく反対されました。両親は『イメージが悪い黒人は家族にしたくない』と偏見で父を判断し、断固として交際を許しませんでした」(クリスティーネさん)

やむなく、クリスティーネさんの両親は別れることになり、父はアメリカに帰国。それから程なくして、母は妊娠していることに気づいた。それを両親に告げると、信じられない言葉が返ってきた。

「黒人の血が入った子どもを産むなら、あなたはもう家族じゃない」

当時、クリスティーネさんの母は18歳、ひとりで産み育てることを決めたものの、家族のサポートがない状態での育児は想像を絶する大変さだったのだろう。途方に暮れた母は、クリスティーネさんが4歳のとき、「今後について考える時間がほしい」と言い養護施設へ入所させた。しかし、彼女がクリスティーネさんを引き取ることはなかった。

幼少期のクリスティーネさん。2歳までは母と一緒に過ごしたが、4歳で養護施設に入るまでは、知人や親戚宅を転々としたそうだ 写真/クリスティーネさん提供

幼い子どもにとって、頼り、甘えられる親がそばにいない環境は、過酷ではないかと想像するが、クリスティーネさんは自分の幼少時代を振り返り、「どちらかといえば良い暮らしだった」と語る。森や湖に囲まれた自然豊かな町で、自分と同じようにさまざまな事情を抱えた子どもたちと思いっきり遊ぶ日々。施設には他にも黒人の子どもがいて、イジメや差別を受けることはなく、良い人間関係に恵まれたのだ。

14歳になったクリスティーネさんは、エフタスコーレ(14〜17歳が通学する全寮制の中学校)に進学。エンターテインメントに興味を持ち、同世代の友人たちと一緒に歌や音楽を学び、楽しい時間を過ごした。