佐々木さんは持病のある家族と同居しており感染予防には人一倍神経を使って生活をしていた。ただ、勤務地が都内だというだけで感染者だと陰口を叩かれるのはあまりに納得がいかなかった。
佐々木さんはむしろ、感染拡大への人々の緊張感が高まっていた春、多くの人が会食や旅行を自粛する中、「アルコール消毒だから大丈夫」といって飲み歩いていたAさんの行動に疑問を持っていた。
Aさんが主張する「リスク」は、自分の都合で判断しているに過ぎない。それでも、製薬会社の社員ゆえに周囲の人はAさんが流すデマを信じてしまっているという。佐々木さんは、「このご時世、Aさんの勤務する製薬会社には社員教育を徹底してほしい」
と話す。
都内の会社に勤務する鈴木春奈さん(仮名・20代)は、医療従事者のパートナーと同居している。11月、パートナーの男性が感染し、濃厚接触者である鈴木さんもPCR検査を受け陽性が確認された。
幸い鈴木さんは軽症で、自宅療養を経てすでに会社に復帰している。上司も同僚からも温かい言葉をかけてもらい、何の不安もなく職場復帰することができていた。ところが最近になり、同僚のひとりから聞いた話に大きなショックを受けていた。
鈴木さんの同僚で、同じく医療従事者の夫と暮らしている女性(Bさん・40代)は、同じ医療従事者の家族を持つ社員として鈴木さんに納得がいかないようだった。
「うちではしばらく夫とは食事や寝室を別にして注意しているのに、鈴木さんは甘いと思う」
Bさんは、皆にそう話しているのだという。また、鈴木さんが事実婚で入籍をしていないことについても、「お互い相手に責任を持ってないからこういうことになった」と批判していた。Bさんの話から、鈴木さんのパートナーは遊び歩いていたのではないか、浮気をしていたのではないかとまで言う人もおり、噂の中心になっているという。
皆、顔を合わせると温かい言葉をかけてくれるのだが、陰では散々悪口を言われていることに気が付き、鈴木さんはすっかり人が信用できなくなってしまったという。会社は年内で退職することに決めた。