コロナ禍に放送を中断しながらも、音楽の力で視聴者を元気づけたNHKの朝ドラ『エール』。大みそかに総集編の放送(BS4Kでは12月28日、BSプレミアムでは29日と30日)があり、紅白歌合戦では主人公の妻を演じた二階堂ふみさんが司会を務めるほか、メインキャストの出演が発表され、改めて注目が集まっている。
 
福島県本宮市の「大天狗酒造」は、山崎育三郎さんが演じた歌手「佐藤久志」のモデル・伊藤久男の親戚にあたる。そして実際に、窪田正孝さんが演じた「古山裕一」のモデルである古関裕而に早稲田大学応援歌の作曲を頼んだのは、二代目社長の弟だ。『エール』で様々な困難を音楽とともに乗り越えたように、大天狗も、相次ぐ困難を乗り越えてきた。東日本大震災の影響を受けただけでなく、2019年秋には台風19号により酒蔵が60センチ浸水。それでも酒造りの歩みは止めず、クラウドファンディング等の支援で酒蔵を修繕し、今年10月にお披露目した。

福島での『エール』の「三羽ガラス」。山崎育三郎さんが演じた「佐藤久志」のモデルとなった伊藤久男さんの親戚の酒蔵が、2020年大きな一歩を踏み出していた 「山崎育三郎公式インスタグラム」より
『エール』で多くの人が元気づけられたように、『エール』ゆかりの酒蔵が多くの人から元気づけられ、そして今元気を与えている 撮影/なかのかおり

震災も乗り越えた老舗

筆者は今年1月、現地を訪ね、4代目社長の伊藤滋敏さん(65)と、娘で杜氏の小針沙織さん(33)に話を聞いた。創業は明治5年。酒造業を始める時、倉庫に残った行李から天狗のお面が見つかり、「大天狗」と名付けられた。安達太良山の伏流水と県産米を使い、少量ずつ手作業で仕込む。多くは、地元で愛飲されてきた。

伊藤さんは早稲田大を卒業後、醸造試験場で酒造りの基本を勉強した。その後、実家に戻り、卸会社に勤めた。30代前半は、岩手から出稼ぎに来ていた南部杜氏と一緒に、蔵で働いた。父が亡くなり、社長になった。当時は、近隣の酒蔵が合同で工場を作り、集約製造していた。日本酒が売れなくなり、他の酒蔵が辞めていった。本宮では唯一残った。

2011年の東日本大震災の際は、仕込み途中の時期で、酒蔵の一部が壊れた。福島第一原発の事故による風評被害もあり、東京方面の販路が減ったという。県内の旅館にも納めていたが、避難所になったため宿泊や宴会がなくなった。もともと地元で消費される割合が多く、売り上げは半分になってしまった。そこから通常に戻るのに、数年はかかった。

2014年には娘の沙織さんが実家に帰ってきて、活気が増した。全く違う仕事をしていた沙織さんは、父や従業員と働きながら酒造りを覚えた。「福島県清酒アカデミー」に参加し、他の酒蔵の仲間とつながりができた。2017年には、デザイナーに依頼してラベルにもこだわり、新しいタイプの日本酒「卯酒」を生み出した。飲食店への働きかけを進め、酒造組合のイベントや物販に参加するようになった。

大天狗酒造の伊藤社長と娘の小針沙織さん 撮影/なかのかおり