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コロナ禍で100万部ベストセラーが誕生!2020年に読むべき23冊

ステイホームな年末年始の推薦本・前編

日本文学/海外文学の仕切りを外す

今年の暮れにもやってまいりました。年末ジャンボおすすめブックリスト。

たいへんな一年でした……。新型コロナウイルスの感染爆発で人々の生活は一変し、世界は有史以来初の「世界同時多発疫禍」を経験しています。これまでもペストやコレラなど世界中を襲った伝染病はありますが、蔓延には時間差がありました。ここまで瞬時に同期したパンデミックはなかったでしょう。飛行機などの高速交通機関であっという間に移動し、しょっちゅう寄り集まって飲み食いし、しゃべりあい、年がら年中密着し、性交し……というニンゲンは、『コロナの時代の僕ら』(早川書房)の作者パオロ・ジョルダーノに言わせると、格好の宿主らしい。いままで動物界に留まっていたウイルスが人間界に移動してきたのには、わけがあるのでしょう。

 

コロナ禍で、文芸の世界も大きな打撃を受けました。音楽や演劇などの舞台芸術は多くの公演が中止に追いこまれ、美術館・博物館も一時は休館を余儀なくされました。活字(文字)文化はその複製可能性から、わりあい打たれ強さを発揮しましたが、それでも、多くの雑誌が休刊・廃刊することになりました。「東京ウォーカー」「アサヒカメラ」「ラティーナ」「ミセス」「JJ」などなど百誌以上。

ことばの世界には、ずいぶん新語が登場してきました。ソーシャル・ディスタンス、クラスター、ブラック・ライヴズ・マターといったカタカナ語が日常会話にも浸透し、一方、Go To トラベル/Go To イートやオーバーシュートなどという、不思議な和製英語が飛び交うこともありました(そういえば、オーバーシュートって珍語はどこへいったんだろう?)。

コロナ禍は悲しいことに、階層や人種間の隔たりや断絶をより露わにしました。そのなかで、黒人へのほとんど狂気めいた理不尽な行動が描かれるナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー『フライデー・ブラック』(押野素子/訳 駒草出版)や、存在を無視された黒人の立場からの告発的洞察の書、ラルフ・エリスン『見えない人間(上・下)』(松本昇/訳 白水社)の新訳が、話題になりました。

さて、今年の年末ジャンボはスタイルを変えて、日本文学・海外文学という仕切りをはずしました。もともとわたしは「国境なき文学団」という連載を文芸誌でやっていたぐらいで、両者の区別を取り払う方向を目指していたことが、理由の一つ。翻訳された文学も日本語文学の一部だと思うのです。

もう一つは、近年、日本語作家の海外での活動も活発化していること。小川洋子さんが『密やかな結晶』の英訳版(スティーブン・スナイダー/訳)で全米図書賞翻訳部門と、ブッカー国際賞にノミネートされたり、柳美里さんが『JR上野駅公園口』の英訳版(モーガン・ジャイルズ/訳)で今年の全米図書賞翻訳部門を受けたりしています。また、松田青子さんの『おばちゃんたちのいるところ』の英訳版(ポリー・バートン/訳)と、川上未映子さんの『夏物語』の英訳版(サム・ベット、デビッド・ボイド/共訳)が「タイム」誌の「2020年ベストフィクション10」に選ばれ(みなさーん、村上春樹も『海辺のカフカ(上・下)』が2005年に米国有力媒体でベストブックスに選ばれた頃から「ノーベル文学賞有力説」が始まったのを覚えていますか?)、村田沙耶香さんは『コンビニ人間』『地球星人』の英訳版(ともに竹森ジニー/訳)が英米でベストセラーです。

村田沙耶香『コンビニ人間』の英語版

他言語で読む読者もまた、日本語作家たちの読者であると同時に、英訳された作品は英語文学として、その語圏の言語や文化に実りをもたらすでしょう。他国語に訳された作品は日本文学や日本語と関係ないと思われるかもしれませんが、言語というのは、多国語間で翻訳されあうことで耕され、肥沃さを増し、文化を形成してきました。世界中の文化文芸は翻訳をとおして巨大な循環をしているともいえます。こうした相互関係も考え、日本文学・海外文学という仕切りをはずすことにしました。2020年という特異な年を振り返る意味で、新刊書以外もご紹介します。