1年半の取材のあとに書き始めた

警察庁によると、13歳未満の子どもが性被害にあった認知件数は、年間1000件を上回ります。それでも、学校での性暴力なんてあるはずない! と思うでしょうか。しかし、学校の教員による生徒への性暴力も後を絶ちません。文部科学省が発表した平成30年度にわいせつで懲戒免職処分を受けた教員の数は282名。前年より増加をしており、そのうち44%が自分の学校の子どもたちに対するわいせつ行為で処分されているのです。しかし問題が明らかになり、処分されているのは氷山の一角とも言われています。

貧困について長く取材をしてきた漫画家のさいきまこさんは、「保健室」を中心とした子どもたちの漫画を描こうと思っていました。そこで取材を続けていくうちに、性被害に遭って長く苦しんでいる方たちの姿に直面したといいます。そこで連載することになったのが、学校を舞台にし、性被害の実態を描いた『言えないことをしたのは誰?』でした。

「これはフィクションですが、1年半取材をしてから書き始め、現在も取材を続けています。事実を伝えなければと強く思いました。むしろ、あまりに辛い内容が多いので、少しでも救いを描くことが難しくて……」

(C)さいきまこ/講談社『言えないことをしたのは誰?』

性的同意年齢は未だに13歳

日本では2017年、110年ぶりに刑法が改正され、性暴力の対象の性別をなくし、それまで親告罪だった規定を撤廃するなどの進展が見られました。しかし相手の同意があったかどうかに関わらず性交した時点で犯罪になるという、「性交同意年齢」は13歳のままで引き上げられることはありませんでした。

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウが世界の性的同意年齢を比較して「10ヵ国調査研究 性犯罪に対する処罰世界ではどうなってるの?」にまとめています。2020年5月までは13歳だった韓国は大量の被害者を出した「n番部屋事件」を受け、13歳から16歳に引き上げられました。フランスやスウェーデンが15歳、カナダやイギリスが16歳です。

まだ10代前半の女性を性的対象として見ることはおかしい。書くとごく当たり前のことに見えるのに、日本ではいまだなお、同意さえあれば中学生と性交すること自体を犯罪とされない現実があります。同意を得るといって、それは本当に「同意」なのでしょうか。

また、被害を受けても、それを被害だと認識するまでに時間がかかることも指摘されています。2020年12月24日に公表された一般社団法人Springが発表した「性被害実態調査アンケート」によると(2020年8月16日~9月5日まで。有効回答5899件)、性被害を受けた時の認識について次の3つの回答が最も多くあります。

「⾃分に⾏われていることが何か、良く分からない状態だった」
「予想していない⾔動があって驚いた/どう反応してよいか分からなかった/⾝体が動かなかった」
「怖くて⾝体が動かなかった」

また、挿入を伴わない被害を受けた51.7%と挿入を伴う被害を受けた63.6%が「それが被害だとすぐに認識することができなかった」と回答しているのです。被害を認識するまでに6~7年かかり、それまで相談すらできなかったという意見もあります。

上記のアンケートで起きた被害の舞台は、学校だけに限ったことではありません。このアンケートにおいて挿入をともなう暴力を受けたという相手は「パートナー(124人)」「友人(62人)」「知人(139人)」「同居父(55人)」「兄弟姉妹(63人)」そして「教員・職員(29人)」「塾先生(25人)」と続きます。学校での性暴力も、残念ながら実在することを示しています。

もし信頼する教師からの被害だったら。誰にも相談できなかったら。自分が悪いと思ってしまったら……。性暴力の被害がどれだけ心に傷を刻み付けるのでしょうか。さいきまこさんが保健室の取材をし、学校を舞台にした性暴力を描かなければならないと感じた背景が、ここにあるのです。