船を知り尽くすメタルカラーが「数字」で覆す「日本史の常識」

通説とは全然違った蒙古軍の「本当の実力」

話題の本、『日本史サイエンス』を読み、著者の播田安弘さんに会いたいと思った。これは私の悪い「癖」(?)だが、本を読んで感動すると著者にどうしても会いたくなる。

その最初は20歳、宮澤賢治先生だった。岩手県花巻市の生家を訪ね、ご令弟の宮澤清六さんにお目にかかったが、それが後に、私が「もの書き」という仕事を選ぶことにつながった。

次が1981年、34歳の時に読んだ京都大学ウイスル研究所、畑中正一さん(現、京都大学名誉教授)の『がんはどこまでわかったか』(講談社サイエンティフィック)だ。「取材」という名目でお訪ねし、8時間におよぶインタビューに応じていただいたが、以降、私がウイルス学を取材し続ける契機となった。

作家の吉村昭さんをご自宅にお訪ねしたのはその数年後だったと思う。2度お訪ねし、徹底して史実を調べあげ物語を構築する“技”を多く学ばせていただいた。

そして「著者に会いたい」の4回目が、『日本史サイエンス』の播田さんだったのである。

『日本史サイエンス』では「元寇で蒙古軍が一夜で撤退した理由」、「秀吉の大返しの成功の思いがけない戦略を推理」、「無用の長物と言われてきた戦艦大和の再評価」という3部からなる。

播田さんはこの3テーマに「造船技術や航海術」という鉈をふるい「史実の常識」を覆していくのが何とも痛快だった。出版元が講談社・ブルーバックスであることを幸いに編集部に頼み込み、著者、播田安弘さんとの対談が実現したのである。

ロケットの残骸を引き上げた「偉人」に見いだされて

山根 お目にかかれて光栄です。

播田 私も山根さんの『メタルカラーの時代』(単行本と文庫、合計24冊を刊行、小学館)を読んでいたので会えて嬉しいです。

『日本史サイエンス』の著者・播田安弘さん

山根 『メタルカラーの時代』では18年間に約2000人のエンジニアと対談しましたが、播田さんは造船エンジニア、私が愛してやまない「メタルカラー」(創造的議技術者)なので楽しみにしていました。

早速ですが、元寇で日本が蒙古軍によって蹂躙されずにすんだのは「神風」(巨大台風)が吹いたからではない、「軍船の建造技術の未熟さ」が主因であり、日本攻撃の軍事力も伝えられてきた軍船900隻、兵力4万より小さかったことを計算によって明らかにされています。なぜそういう検証を書こうと思ったんですか?

播田 私は船が好きで家業が造船業だったこともあり三井造船に入社、69歳で退職するまで船の設計をしていました。歴史上の古い船に興味があり、趣味で蒙古軍船の設計復元をしていました。その作業を通じて歴史学の通説は違うのではないかと確信、造船や海洋技術者が70〜80人集まる会で講演をしたところ、技術者たちが「面白い」言ってくれたんですが、その一人が海洋研究開発機構の門馬大和(ひろやす)さんでした。

山根 門馬さんのお名前を『日本史サイエンス』のあとがきで読んでびっくり。門馬さんは、1999年11月に打ち上げに失敗し小笠原海域の深海に沈んだ宇宙開発事業団(現・JAXA)のH-IIロケット8号機のエンジンなどの残骸の引き上げた方です。すごい難仕事を達成した「偉人」です。私は、門馬さんのその仕事の全貌をスクープとして書いるんです(『文庫版・メタルカラーの時代6 ロケットと深海艇の挑戦者』)

播田 不思議な縁ですね。その門馬さんのお力添えがあり講談社ブルーバックスでの『日本史サイエンス』の出版が実現したんです。H-IIロケット8号機は、母船から深海に降ろした無人潜水機「ドルフィン3K」で見つけたんですが、その潜水機はうち(三井造船、現・三井E&S)が製造したという縁もあります。

エンジンを引き上げたとことで、約4万回転のターボポンプを流れていた液体水素がキャビテーション(泡の発生と消滅)を起こしたという原因がわかった。それは、後のH-IIAエンジンの改良に大きな貢献をしたので、門馬さんと三井造船には深く感謝しないといけない。H-IIロケットは日本が国産100%で完成したが、打ち上げ失敗による指令破壊(自爆)は歴史的な事件であり事故だった。

歴史的な事件や事故からは往々にして科学技術上の問題点が浮かび上がってくるが、播田さんは13世紀後半の年蒙古軍襲来という歴史的事件を「科学技術」の篩にかけたことに驚かされた。元(蒙古)は日本侵攻のために支配下にあった高麗に、半年という短期間に「軍船900隻」を建造させたというが、播田さんは、それが可能だったのかを、まず建材供給源である森林の検証から始めている。

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