IQ180の天才プログラマー、シリコンバレー起業家、Appleの人工知能「Siri」の開発顧問……。2016年に35歳の若さで「デジタル担当大臣」となるまでの経歴はまさにITの申し子である。はたして、この人が語るその筋の用語やテクニカルな話題についていけるだろうかと本書を前に身構えてしまったが、いざページを開いてみたら無駄な心配だった。日本の読者へ向けて、デジタル化や働き方改革、外国語教育などの日本の事情を踏まえたうえで、手際よく話を整理しながら語ってくれていたからだ。どの言葉も読むそばからすうっと胸に落ちてくる。誰も置いてけぼりにしない、その語り口に引き込まれた。
そもそも自由とは何だろうか。曰く、自由には2種類ある。「ネガティブ・フリーダム」(消極的な自由)と「ポジティブ・フリーダム」(積極的な自由)。前者は、「既存のルールや常識、これまでとらわれていたことから個人として解放されること」、後者は「自分だけでなく他の人も解放し、自由にしてあげること」だ。前者は「自由への最初の一歩」にすぎない。ほんとうの自由を実現するために、後者の「ポジティブ・フリーダム」へと歩を進めよう、とタン氏は呼びかける。