私たちが普段食べている和食の基本となる醤油や味噌などの調味料は、「麹」がなくては作れないもの。つまり「麹」は日本の食文化を支えてきたのものと言えます。そんな麹に、4代にわたり向き合ってきた麹屋の山元正博さん(農学博士)・文晴さん(医学博士)親子。この山元さん親子が経営する「源麹研究所」は、麹菌がもたらす可能性や力を日々研究しており、世界中の企業や研究者たちが頻繁に訪れるほど有名。焼酎ブームを作ったとも言われています。

「麹は食べ物として人間の免疫力アップに役立つのはもちろん、 汚染が進む地球環境を救う可能性をも秘めています」と語る山元さん親子。麹が体にいいのはなんとなく知っているけれど、具体的にどんなものなのでしょうか。麹の知られざるパワーを、お二人の共著『麹親子の発酵はすごい!』(ポプラ社)より、内容を一部抜粋してご紹介します。

山元正博(やまもと・まさひろ)
農学博士。(株)源麹研究所会長。鹿児島県で100年続く麹屋の3代目として生まれる。東京大学農学部から、同大学院修士課程(農学部応用微生物研究所)修了。卒業後、(株)河内源一郎商店に入社。1990年に観光工場焼酎公園「GEN」を開設。チェコのビールを学び、1995年に誕生させた「霧島高原ビール」は、クラフトビールブームの先駆けに。1999年「源麹研究所」を設立。食品としてだけでなく、麹を利用した食品残渣の飼料化や畜産に及ぼす効果などの研究を続け、環境大臣賞も受賞している。
山元文晴(やまもと・ぶんせい)
医師。山元正博を父に持つ、 鹿児島の麹屋の4代目。東京慈恵会医科大学医学部卒業。独立行政法人国立病院機構鹿児島医療センターで臨床研修医として、鹿児島大学医学部外科学第二講座では心臓血管外科、消化器外科を専門として従事する。医師として患者さんに向き合う中で医療における麹の可能性に気づき、故郷に戻り錦灘酒造株式会社に入社。その後、東海大学大学院医学研究科先端医科学専攻博士課程を修了、医学博士号を取得し、現在に至る。麹が体に及ぼす働きの臨床例を増やすため、研究中。

麹を食べなくなることは大変な事態

皆さんは、麹を食べていますか? 皆さんにとって身近なのは、味噌や醬油、 焼酎や日本酒などの原料としての麹でしょうか。たいていの日本人は、育ってくる過程のあちらこちらで麹を口にしていると思います。ところが最近では、味噌の個人消費量だけを見ても減少する一方で(※1) 、麹がだんだん食べられなくなってきています。これは実は大変な事態です。

写真はイメージです。Photo by iStock

なぜなら我々日本人は、自分たちでもまったく気づかぬ間に、麹の力の恩恵をずっと受けてきたからです。麹は長い間、体作りの大事な素材のひとつであり、健康を支えてきた立役者、なんですよ。

昔は麹が体にどのような作用を及ぼすのか、ということを真剣に研究されていなかったし、調べる技術にも限界がありました。でも私は、麹一筋の家に生まれ、子どもの頃から麹作りの工場で育った人間として、麹の力を目に見えるきちんとした形で証明したいと考えていました。そして、手探りながらも様々な分野の実験、実践を続けてきたのですが、やはり麹は、ものすごいパワーを持っているということが次々とわかってきたのです。

例えば麹には、免疫力をアップする作用があります。農薬の成分や、放射能をデトックスする力も持っています。これらはみな、「そんな気がする」という個人の感想などではなく、きちんとデータとして結果が出ていることです。

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東京電力福島第一原子力発電所事故があり、新型コロナウイルスなどの脅威にさらされている日本人には、必須の食べ物なのです。 人間の体に対してだけでなく、畜産業の動物に対しても、さらには土壌に対しても素晴らしい作用をもたらしてくれます。地球の環境問題も、麹を利用していくことで解決できることがたくさんあります。ずっと麹を研究している私ですら、麹のポテンシャルに驚かされる日々ですし、「なんて不思議な生き物だろう」と驚嘆しています。まだまだ解明しきれていない部分があるんです。

いちばん不思議な点は、「麹は主役じゃない」という点です。 麹は、「俺が全部変えてやるぜ!」と一人で活躍するのではなく、麹のことを好きな仲間をどんどん引き付けて、その仲間の活躍で、結果的に人間や動物、地球にもよい結果をもたらすのです。「共生」の力を証明する存在、それが麹なんです。 麹は人類に対してもたらされた最高のギフトなのです。

そんな存在が日本で生まれ、先人たちが麹を利用する技術を磨き、育て、伝えてきたことを誇りに思い、もっともっと麹の力を知ってもらい、利用していってもらいたい。 それが麹屋としての私の強い願いなのです。

※1 参照 全国味噌工業協同組合連合会 『都道府県庁所在市別、1人当たりのみそ購入数量(g)〈全世帯〉平成12年〜22年』