福岡・糸島で活動を始めて、今年で11年目。生産者と積極的に触れ合い、絆を深めながら、活動範囲を広げてきた料理家・広沢京子さんが、久留米、八女へ小さな旅に出かけました。人に触れモノに触れ、見えてきたものは?
●情報は、2020年2月現在のものです。
ちくごを巡る小さな旅。
まずは久留米からスタート。
うららかな日差しが降り注ぐ福岡県久留米市の朝。まるで跳ねてるみたいに元気よくやって来たのは、料理家・広沢京子さんだ。結婚を機に福岡に生活の拠点を移して早10年。今日は駆け足でちくごを旅するという。おいしいものだけじゃない、素敵なモノや人に会いに行く。そのトップバッターが〈山口酒造場〉というわけだ。
旅に出かけたのがお正月前ということもあって、店の入り口には伝統のしめ飾りが下がっていた。まず、そこで立ち止まり、珍しそうに稲穂を矯めつ眇めつしてから中へ。出迎えてくれたのは、〈山口酒造場〉第11代蔵元の山口哲生さんだ。山口さんに会いに来たのには理由があった。
2009年にスタートした福岡県の筑後地区を中心とした公共事業、「九州ちくご元気計画」のイベントで、〈山口酒造場〉のお酒を使った広沢さん。きちんとご挨拶できずじまいだったので、山口さんに会いたかったのだという。11代も続く酒蔵だから、伝統と格式でガッチガチの古めかしいところかと思いきや、未来を見据え、軽やかに現代を生きる酒蔵だった。もちろん、守るべき技術や伝統はきちんと守りつつである。
母屋の奥の部屋(ラウンジ)にいざなわれた広沢さん。早速、何か発見した模様。「あ、もしやここ、建築は二俣公一さんの設計ですか」。山口さん、「はい、母屋と向こうの蔵の部分改修をお願いしました」。母屋と蔵とをつなぐ間には、しゃれた中庭と階段が。素敵な空間である。
「ちょっとテイスティングしていただきましょうか」。山口さんが用意してくれたのは、看板商品の『庭のうぐいす』シリーズ。中でも、季節限定の『うすにごり』と『はなびえ』だ。いつも〈山口酒造場〉のお酒をいただいているという広沢さんだが、こちらは両方とも初体験。わくわくしながらゴクリ。
「軽やかですねぇ。あ、酸味が膨らんできます」と広沢さんが言えば、「やさしいでしょ? そしてシャープでコクもある」と山口さん。「まるでワインを飲んでるみたい。お出汁にも合いそう。お刺身にも合わせたい」と広沢さん。
「久留米産の夢一献という酒米を用いています。柔らかい米で、搾った瞬間からおいしい。僕はソーヴィニヨン・ブランが好きで、それを米で表現したいと常々思ってました。そんなときに夢一献に出合った。不思議なことに、ワインみたいな色をしてるんです。これを用いて、軽やかで長期熟成しない酒を作りました」。山口さん、お酒のこととなると饒舌だ。ほんのり頬がピンクになった広沢さんと、話題が尽きず、愉快な時間が過ぎていく。