試験管で培養された脳、コンピュータ上で再現された人工知能……技術の進歩により、さまざまな「脳」が生み出されています。死んだ個体の脳機能を"生き返らせる"方法も研究されていると言います。
脳が生きているとはどういうことか、人間らしさを生み出す脳とはどういうものか――。脳の大きな謎に迫った新刊『脳を司る「脳」』から、プロローグを特別編集してお届けします。
「生きている」とは、どういうことですか?
こう訊ねられたら、あなたは何と答えるでしょうか。心臓が動いていること? 息をしていること? 脳が活動していること?
――その答えを聞く前にまず、こんなお話を紹介しましょう。
アメリカの研究グループが、死後4時間で取り出したブタの脳に特殊な装置を用いて代用血液を送り込むことで、一部の脳機能を回復させることに成功したそうです。生前に何か特別な処置がされていたわけではなく、どこにでもいる普通のブタの脳活動が死後に回復したということです。
通常、首を切り離してしまえば心臓が止まり、その動物は死んでしまいます。ところがこの研究結果は、心臓が止まったあとも脳は生き続けているかもしれない、ということを示唆しています。
かつて動物の「死」は、呼吸や心臓が止まってしまうことと定義されてきました。現在も、死をそのように捉えている方も多いかもしれません。ところが、医学の技術が発展することで、電気ショックや薬剤を用いて、一度停止してしまった呼吸や心臓のはたらきを蘇生することが可能となりました。これにより、動物の不可逆的な「死=心臓の停止」という常識は、徐々に変化してきています。
従来の概念に代わって、人間にとっての本当の意味での死は、脳の死ではないかという議論が起こり、現在でも賛否両論があります。言い換えれば、「生きている」とは「脳が生きている」ことと捉えられるようになってきているのです。
では、「脳が生きている」「脳が死んでいる」とは、どのような状態のことでしょうか?
脳が活動しているときには、微弱な電流が発生します。したがって、電気的な活動が見られると「脳が活動している=脳が生きている」とも捉えられます。
ですが、そもそも脳の活動を知るのに、電気的な活動を測定するだけで十分なのでしょうか?