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新型コロナ不況下の自殺者増、実は「急増」しているわけではない

メディアの悲観論ははっきり言って過剰

新型コロナ不況で職を失い自殺する人が急増し始めたという記事が一部のメディアで流れている。そのようなことが本当に起こり始めているのだろうか?

自殺者数の増減という社会現象は、金融系エコノミストの筆者にとっては専門外であるが、わかる範囲でこの問題をデータに基づいて検証、ご説明しよう。

結論から言うと、日本における自殺率(人口10万人当りの年間自殺者数)と失業率の変化には非常に高い関係性(正の相関)があり、失業率の上昇に伴ってある程度の自殺率の増加は起こり始めている。

しかし統計データが示すその変化は決して「急増」というようなトレンドの変化を示していない。自殺はもとより悲しむべき現象ではあるが、個別事例を逸話的に強調することで過剰な悲観論を煽るメディアの俗流記事に騙されないようにしよう。

次々と飛び出す悲観的記事

例えば今年の4月次のような短いレポートが出て、それに関わったと思われる論者の言説がメディアで流れた。

「実質 GDP が 2020 年度において 14.2%下落し、失業率はピーク時に 6.0%~8.4%に到達して、累計自殺者数は約 14 万人~27 万人増加する可能性が⽰された。」(京都大学レジリエンス実践ユニット「新型コロナウイルス感染症に伴う経済不況による『自殺者数』増加推計シミュレーション」2020年4月30日

また、つい最近では次のような記事が流れた。

「政府の統計によると、日本では10月の国内の自殺者数が年初来の新型コロナの死者数を上回った。警察庁が発表した同月の自殺者は2153人と前月から急増。一方、厚生労働省がまとめる日本の新型コロナ死者の合計は、11月27日時点で2087人となっている……自殺の問題に詳しい早稲田大学の上田路子准教授は、日本ではロックダウン(都市封鎖)が行われず、ウイルスそのものの影響も他国と比較して軽微だったにもかかわらず自殺者は大きく増加していると指摘する。」(CNN.co.jp「日本の10月の自殺者、年間の新型コロナ死者上回る 女性の増加顕著」2020年12月1日

まず、失業率と人口10万人当りの年間自殺数である「自殺率」の推移を1970年以降の年次データで確認しよう。図表1が示す通り、両者の変化は主要な山谷が重なっている。2020年のデータは、自殺率(警察庁)が11月まで、失業率(総務省)が10月まで開示されているので、それぞれ年換算にして図表1に示した。

 

これで見る限り、日本の自殺率は2003年の27.0をピークに2012年前後から失業率の趨勢的な低下に伴って下がり、2019年にはバブル経済のピーク時1990年の17.3人をも下回る16.6人に下がった。