さて、2014年には新たに2種がティラノ軍団の新メンバーとして加入しています。この2014年というのは、私にとって特別な年でした。というのも、この2種のティラノサウルスの仲間は、どちらも私の研究仲間による発表であったからです。
そのひとつ、アメリカ・アラスカ州から発見された「ナヌクサウルス・ホグルンディ」について少しご紹介しましょう。これは「地球の果てで発見された、新しい小さなティラノサウルス」として話題になりました。
ナヌク「nanuq」とは、アラスカ州北部に居住する先住民族イヌピアの人たちが話すイヌピアック語で「ホッキョクグマ」という意味で、ホグルンディは「トカゲ」のこと。つまり、「ホッキョクグマトカゲ」という意味になります(ややこしいですが)。
私は2007年からこのアラスカで調査をおこなっていますが、その調査を一緒におこなっているアンソニー・フィオリロ博士らが、ナヌクサウルス・ホグルンディの名付け親です。
時代は約6900万年前の白亜紀の終わり(マーストリヒチアン期)。出土したのは、頭の一部(上顎骨、頭頂骨、歯骨、歯)の化石でした。これらの化石が、私たちにおもしろい事実を教えてくれました。
まず、アラスカ州が具体的にどのあたりに位置する地域か、みなさんはピンとくるでしょうか? アラスカはカナダの西側に位置し、ロシアからベーリング海峡を挟んで東にある大きな州です。面積にして北海道の約18倍、日本の4倍に相当します。
アラスカのノーススロープという地域を南北に流れるサック川に並行して、西へ100キロほど離れたところにコルビル川が南北に流れています。ナヌクサウルスが発見されたのはこのエリアです。
ブルックス山脈よりも北で、むしろ北極海に近い、つまりナヌクサウルスは極限の環境に棲んでいた恐竜なのです。北限も北限、これ以上ないくらい北の果てに恐竜が住んでいたのですから、これは興味深い発見です。