取材予定の時間をすこし過ぎて部屋に入ってきた松本さんは、「遅れて申し訳ございません」と言って深々と頭を下げた。
音も立てずにスッと席に着くと、自然にミネラルウォーターを口にふくむ。
机上には『古今和歌集』。「ビジネス書はまったく読まないんです」と言い切る男が語る「新しいビジネスモデル」とは---。
「『100年に一度の経済危機』というのは、まったくの嘘ですよ。自慢するわけじゃないですが、僕はリーマンショックが起きた直後からそう言い続けている。今までもあったことだし、これからもあることです。最近は10年に一度くらいの頻度で起きている状況となんら変わりません」
サブプライムローン問題、リーマンショックに端を発する一連の経済異常事態を世間では「100年に一度の危機」と呼ぶことが多い。この危機によって、ビジネスや経済環境はどのような変化があったのか? と質問した際、松本さんが最初に発した言葉だ。
松本大。マネックス証券代表取締役CEO。東京大学法学部を卒業後、外資系証券ソロモン・ブラザーズに新卒で就職。3年後にはゴールドマン・サックスに移籍。史上最年少でゼネラルパートナー(共同経営者)に就任したが、その地位を捨ててマネックス証券を35歳で立ち上げた。