はやぶさ2成功が証明した日本のものづくりの凄さ

福島の中小企業が作り出した、世界初の小惑星衝突器
NHK小惑星リュウグウ着陸取材班 プロフィール

世界が驚いたインパクタは福島生まれ

3億kmの宇宙の彼方で、900mほどしかない小さな小惑星に弾丸を撃ち込んでクレーターをつくったインパクタ。世界を驚かせたこの前代未聞の挑戦を支えたのも、日本の中小企業の実力だ。

インパクタの全体設計と重要な爆薬の充填を担当したのは、東京都港区に本社がある「日本工機」だ。はやぶさ2の衝突装置を担当する宇宙科学研究所の佐伯孝尚らの要求に応えた。会社の創業は昭和の初め。実は前回の東京オリンピックの聖火のトーチの製造も行っている。

会社の研究施設は都内ではなく福島県西白河郡の山あいの広大な敷地にある。『ドキュメント はやぶさ2の大冒険』でも紹介したがインパクタはもともとは弾丸の形ではない。円形の平たい銅板が、爆発で撃ち出され、瞬時に形状が変化するのだ。

開発リーダーのひとり松崎伸一は開発のポイントを次のように説明してくれた。

「銅板の中心部には強い衝撃波が当たるように爆薬を詰めます。逆に周辺は相対的に弱くする。すると中心部分が押し出された弾丸の形になるわけです。充填した爆薬にむらがあったり、ちょっとでも隙間ができたりすると、狙い通りの衝撃波は発生しないので、きわめて精緻な充填方法を編み出す必要がありました」

この充填方法が尋常でなく難しかったという。インパクタの容器は円すい形で設計したので口が小さい。このため、固形の爆薬ではなく、どろどろとした山芋のとろろのような液状の爆薬を使った。

ところがどろどろした爆薬を狭い口から普通に注入するとどうしても空気が入ってしまうという。空気が入り、爆薬に隙間ができると衝撃波は均等に発生しない。均等でないと、銅板がまっすぐに撃ち出されないし、きれいな弾丸の形にはならない。

開発陣は、実物大の模型を作り、何度もどろどろの爆薬を流し込んではレントゲンをとって、中に隙間がないか調べたという。どのくらい繰り返したのですか、と聞くと松崎は少し遠くを見て思い出すような素振りを見せたあと「いやあ、回数は思い出せませんね。それくらい何度もやりました」と答えた。

【写真】日本工機の松崎さんインパクタを手にする日本工機の松崎伸一さん

さらに開発途中に別の大きな困難が会社を襲う。2011年3月の東日本大震災だ。工場でも大きな被害が出た。地盤が傾き製造装置などの一部が使えなくなった。断水も長期に続き、必要な資材も手に入らない状態に陥った。通常、開発は中断するところだ。

しかし、開発陣は、何か少しでもできることはないか探ったという。そしてコンピュータ上でシミュレーションをしてデータを蓄積することを思いついた。震災の影響が続く中でも、開発作業を進めたという。その結果、最適な充填の仕方にたどり着き、心配された打ち上げの期日にも間に合わせることができたのだった。

NHKリュウグウ着陸取材班のインタビューでは、松崎が開発陣の思いを語ってくれた。「福島に研究拠点があり、ある意味福島の会社なんです、私たちは。震災からの復興のためにという意識でやってきました。絶対成功させる。その熱意が成功の理由のひとつだったと思います」

日本工機の全体設計を受けて、インパクタの金属製の容器の製造を手がけたのも福島県の会社だ。福島県鏡石町の会社「石川製作所」とグループ会社の「タマテック」だ。2社は同じ敷地にある、金属加工の専業メーカーだ。

最初にインパクタの話を持ってきたのは石川製作所の営業担当の須藤儀一だった。元大手光学メーカーの技術者だ。

「取引先は多角的に持っておいたほうがよいとの方針で全国的にやってきました。つきあいのあった日本工機さんからまず小型の試作品を2日で作れないかと依頼が突然入りまして。頑張って作りました。実はインパクタは最初は円すい形ではなく、円柱のデザインを考えていました」

開発の山場はステンレスでできた容器をできるだけ"薄く"することだった。探査機は打ち上げの重量制限があるため重要な部品であっても軽量化が要求される。当初の設計段階では厚さ3mmだった容器を最終的に厚さ1mmにすることになった。タマテックの副社長、吉田武はこのときの戸惑いと決意を振り返った。

「インパクタの構造や設計を変えるわけにはいきませんので、軽くするには削って薄くするしかない。ただ爆発に耐える強度も維持しないといけない。強度と軽量化のぎりぎりの線を狙いました。実は弊社でも1mmのステンレスは初めてでしたが、最新の加工装置などを駆使して、両立させることができました」

【写真】吉田さんと須藤さん、インパクタタマテック副社長の吉田武さん(右)と石川製作所の須藤儀一さん。吉田さんが手にしているのが最初にデザインした円柱形のインパクタ。最終的に須藤さんが持っている円錐形になった

会社では今後も宇宙分野への進出を進めるという。

最後に、吉田はNHKリュウグウ着陸取材班にこう話した。「採用も地元だけの、本当に地方の中小企業ですが、東京など都会に比べて土地が安くて広く、最新の金属加工装置を導入しやすいなど地方の強みもあります。地方の疲弊が言われますが、工夫をすれば戦えるんです。今後も技術を磨いて勝負をしていきますよ」と。インパクタの話を持ってきた営業の須藤は今年72歳。定年を延長してはやぶさ2の帰還を待っていた。この12月に一線は退くつもりだという。

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