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哲学が「ガン治療」に役立っていた…哲学の「科学への貢献」をご存知ですか?

「自然主義」とは何か

「哲学」と聞くとどういうイメージを読者はおもちだろうか。著名なイラストサイトで「哲学」と検索すると、ソクラテスやキルケゴールのような哲学者の似顔絵がたくさん出てきた。

これは哲学のイメージの一端を表している。つまり哲学とは、いにしえの偉大な哲学者の著作を読み、その叡智を用いて深遠な問いを考える学問である。こうした知的営みに価値があることは疑いない。

だがこうした営みだけが哲学だと考えるのは間違いだ。というのは、新しいタイプの哲学がここ数十年の間に興隆したからである。これは「自然主義」と呼ばれる。じつはわたしもその流れに乗るべく、新刊『種を語ること、定義すること』(勁草書房)を出版したのである。

 

「自然主義」の哲学

では自然主義とは何か。この立場のスローガンの一つは「哲学と科学は方法論的に地続きだ」というものだ。哲学と科学の間の距離は一般に思うよりもずっと近いので、哲学と科学は相互に影響を与える、という考え方だ。

これは二つのことを意味する。第一に、哲学者が伝統的に議論してきた問題、特に心にかかわる問題(「意識とは何か」や「我々が本当に自由か」)について考えるときに、科学の成果を無視できないこと。

もう一つは、哲学者が科学の現場に立ち入って、科学者が格闘している問題、さらには科学の発展のためには大事だが科学者がにわかには検討できない問題について考えることである。

しかしこれだけでは、自然主義の哲学が可能なのか疑問に思う読者もいるに違いない。古い哲学書を読むことを生業にする人たちが、科学の成果を取り込み、科学研究に貢献するなんて可能なのか。

本稿ではそうした疑問に対して、自然主義という「新しい哲学」の研究者が何をしているのか、そしてそれがどのようにして科学の進展に貢献するのかを紹介していこう。