人はなぜ宇宙人に誘拐されるのか? その原因は1938年にあった

心に潜むふしぎな働き『認知バイアス』

この記事のタイトルは、相当に衝撃的(笑える?)だと思うが、実はエリエザー・スタンバーグの本から取ってきている。

私もタイトルに惹かれて読んでみた。一見ふざけた本のように思えるが、脳科学、精神科学の知見を豊富な症例とともに解説するきわめて真面目な本だ。そもそも原題はNeuroLogic であり、「神経の論理」と訳すのが適当だろう(翻訳書のタイトルの方が個人的には好きだが)。

以下ではこの素敵な本で取り上げられている症例を紹介してみたい。

もしも体が自由に動かなかったら

さて私たちは自分の体を随意に動かすことができる。足を組もうと思えば足を組めるし、手を挙げようと思えば手を挙げることができる。

では睡眠中はどうだろうか。寝返りを少なくとも5回は打つようにしようといくら念じてみてもそうは体は動かない。いびきをかかないようにと努力しても、いびきはかいてしまう(それができれば家族に安らかな眠りを与えることができるのだが)。

このように睡眠中は体を随意に動かすことはできない。これは睡眠中には、前頭葉などからの信号が運動領域へ届かないようになっているからだ。だから夢の中で暴漢に襲われそうになり逃げ出したとしても、実際に走り出したりすることはない。

一方、目覚めれば体はまた自分の意図に従って動くようになる。これはオフになった回路がまたオンになるからだ。

ところが何らかの理由で、覚醒あるいはそれに近い状態になっているのに、回路がオンにならないことがある。すると意識はしっかりしているのに体を動かせない異常事態が出現する。これは睡眠麻痺と呼ばれており、インターネットなどにもさまざまな解説が載せられている。

さてここからが心の出番となる。自分が動こうと思っているにもかかわらず、体が動かないというのはどんな場合があるのだろうか。

冷静な医師ならば、「ああ睡眠麻痺か、しばらくすれば治るから横になっていよう」と思うかもしれない。しかしそんなことを知らない人は別のことに理由を求める。体が動かない典型的な場面は縛り付けられた時かもしれない。そういう人は金縛りにあったと考える。そしてそんなひどいことをする人は周りにはいないから、きっとそれは悪魔や鬼がやったに違いないということになる(つまり悪魔や鬼の意図だ)。

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理由は、その地域に伝わる伝説、神話などに求められることもある。wikipediaには世界のさまざまな地域でも睡眠麻痺の説明枠組みが挙げられている。

幽霊、死者、悪魔が体に乗り移り体を支配した、凶悪な動物が自分を押さえつけている、神聖な樹木が人から栄養を取るために動けないようにしている等々。人間の想像力の豊かさに驚かされるばかりだ。

さてここまで語れば、本記事のタイトルはだいたい理解していただけたのではないだろうか。