科学技術英語関係の仕事に長年携わり、『理系のための英語論文執筆ガイド』『間違いだらけの英語科学論文』などの著書がある原田豊太郎さん。これらの本を執筆してきた理由は、「英和/和英辞典を補完する」ことだったといいます。
多くの辞書を買い集め、使い込んではみたものの、思うような訳語や用法にたどり着けない。ならば、無数に収集してきた用例を徹底的に整理しなおして、自分でつくるしかない! そう考えたというのです。
そんな原田さんに、実は日本人にとって使いこなすのが難しい英単語「drive」について解説していただきました。
たとえば次の例文を、あなたならどう訳しますか?drive は、ゲルマン語起源の動詞である。元々は「(動物を)追い立てる」の意味であり、羊飼いの少年が羊を追い立てている場面が浮かんでくる動詞である。
一般英語では、人が主語になることが多く「(車を)運転する」「(車で人や荷物を)運ぶ」「(人を)駆りたてる」「(人を)せきたてる」などの意味で用いる。
理系英語では主に、
(1)「(ものを)動かす」、
(2)「(ことを)推進する」、
(3)「(ものを)(ある状態に)追いやる」
の意味で、他動詞として使用する。
いずれもSVO型で用い、(1)の場合、目的語の後に「方向」を表す副詞句をとることがある。(2)の場合は、into句、to 句で「状態」を表す。使用頻度は高くはないが使いこなすのが難しく、日本語にしにくい動詞である。
「動かす」の場合、【例文1】に見るように、主語には力やエネルギー、あるいは力を発揮する機械や装置などがくる。これらがものを動かすことを表現する場合に drive を用いる。
【例文2】【例文3】に見るように、「推進する」の drive は「動かす」の drive よりもわかりにくい。1つの理由は、目的語に「もの」ではなく、現象などの「こと」がくるためである。
特に、【例文3】は日本語にしにくい。意味は「熱力学的拘束が……の折りたたみを推進している」である。