大切な人を亡くした時、人は途方に暮れる。
絵本作家のいりやまさとしさんが、奥さんを亡くしたのは2年前のことだった。
「それまでいろんな別れを経験してきたけれど、どこかで見ていてくれると思うことで、自分を納得させることができた。でも長く連れ添った奥さんが死ぬというのは、それまでのどんな別れとも違って、この先もう二度と会えないってことがよくわからないんです。
どこかで会えると思いたいけど、その術はないわけで、そこから先に考えがいかない。だからまずその気持ちを本にしたかった。どうしたらそのことを受け止めて、この先の日々を暮らしていけるんだろうと」
かたっぽだけの手袋。すぐにそんなモチーフが浮かんだ。ふたつでひとつが当たり前なのに、かたっぽだけ残された手袋の物語『あかいてぶくろ』は、こうして生まれた。
子ども向けの月刊誌の編集長だった奥さんとは、挿絵の仕事がきっかけで知り合った。
結婚式の引き出物として、初めての絵本『みどりのくまとあかいくま』をつくった。
「雪が降って、真っ白になった世界で、みどりのくまとあかいくまは、お互いのことを認め合うんです。ああ、みどりもいいな、あかもいいじゃないかって」
キャラクター絵本のシリーズ『ぴよちゃん』も、子どもが生まれてできた作品だ。
「挿絵を描いていた頃は、自分にお話がつくれるとは思っていませんでした。丸ごとファンタジーの世界を作り上げる人もいると思うけど、僕の場合は生活あるある。人生の節目節目で自分の実体験からヒントをもらってきた気がします。
「パンダたいそう」シリーズも、次男の保育園の運動会に行って、体操をしてるのを見て、アイデアが生まれたし、次の作品『マスクをとったら』(2021年1月刊行予定)は、この頃ふさぎこみがちな子どもたちを見て、思いつきました。振り返ると、どの絵本にも家族の思い出がある」