コロナが世界の変化を加速させている今、消費行動も、大量消費から、個人の思いが生むヒットへと大きく舵をきりはじめている。
人間がもつ熱量が、人の心を動かし、出会いを演出する時代が来ているのだ。
音楽でも、YouTubeにあげた音源が、人づてに拡散し、ヒット曲になるなど、作品に出会った人の思いがヒットの構造を大きく変えようとしている。
東日本大震災から復興しようとする人々と町を描き、Twitterで大反響の『柴ばあと豆柴太』の2巻が、12月9日に緊急発売したが、この2巻を120冊仕入れて作った棚が話題を呼んでいる。
福島県のみどり書房福島南店(福島県福島市黒岩字浜井場24-1)だ。
なぜ新人作家の初連載作を120冊も仕入れたのだろうか?
みどり書房福島南店の尾形龍副店長に話をきいた。
「以前から自分たちでいいと思う作品をお店として推してみる……ということをしてみたいと思っていました。でもその機会のないまま、漠然とそう思っているままで。
そんなとき、コミック担当者より『柴ばあと豆柴太』のゲラを渡されました。『最初の4ページまでしか職場では読めない。これ以上読んだら泣く』ということで自分も読んでみたらやはり最初の4ページで涙が……。
2人だけの現象では?ということで、文芸担当にも読んでもらったら、やはり『最初の4ページで泣いてしまい、これ以上職場では読めない』と。
3人全員が4ページで泣いてしまうなら、これはいけると!
実際、読んでもらうのが一番……ということで、途中まで立ち読みできる本も用意したところ、手に取った人が買ってくれる率がとても高かった。年齢は様々です。
実際びっくりしたのは、10歳の自分の娘が、家にある『柴ばあと豆柴太1』を読んで、震災のことをいろいろ質問してくれたこと。震災の年に生まれた娘にとっても、面白い本だったんだ……ということが発見でした。
最初はかわいい犬の漫画だと思ったんだと思うんですが……。
京都出身の作家さんが描いているということは気になりません。
むしろそれによっていろいろな視点の人が描けている気がします。
どうしても震災地域によって、被害や、思いがすこしずつ違いますから。
2巻は120冊仕入れました。
この作品は、東日本大震災を扱っているから……ということでなく、素直にいい作品だから推そうという思いです」
9月発売の1巻も発売日初日にバカ売れということはなかったが、確実に日々売れていって、最終的に111冊が、福島南店だけでなくなったという。
「写真を拝見して、書棚にとても熱い思いがこもっていて、本当にうれしくなりました。みどり書房をはじめとして、丁寧に置かれたコミックをいろんな書店で拝見するたびに、もっとがんばって、もっといい作品を描きたいという気持ちでいっぱいになります。新人作家にとって読者と書店さんが心の支えです。たくさん勇気をもらっています」(作者のヤマモトヨウコさん)
作品につまると、ヤマモトさんは近所の書店に足を運び、エネルギーをもらっているという。
あなたも『柴ばあと豆柴太』を読んで、最初の4ページの山を経験してみては?
あなたを普段気づかない「心動かす物語の山」に導く最高のガイドは、きっと書店にちがいない。
2011年3月……ボクと柴ばあは出会った。東日本大震災で家族をなくしたひとりと一匹がよりそうながら暮らす東北のある港町。お弁当屋さんを営む柴ばあと、小さな豆柴犬の二人暮らしをめぐる四季の物語。東北の温かさと、せつなさが伝わるストーリーと4ページのそれぞれの心象風景できりとった、新しい形のコミックス。たのしい4コマをはじめとした描きおろしもいっぱい!
『柴ばあと豆柴太 2』(ヤマモトヨウコ著、講談社)
ヤマモト ヨウコ
京都府出身。現在、転勤で仙台在住。初連載に緊張中。豆柴太をよろしくお願いします! https://twitter.com/YY0905