東京から京都に拠点を移したジャーナリストの秋尾沙戸子さんと、その秋尾さんを京都の師と仰ぐ東村アキコさんの連載「アキオとアキコの京都女磨き」。京都を知ることは日本を知ること。タイムスリップし、その時代を感じられる京都でふたりが体感した奥深さをお伝えしていく。
連載4回目の今回は、「京都の正月支度」が始まる12月13日の「事始め」で秋尾さんが感じた、「違和感」の正体について。

京都に出現する謎の「追っかけ」

せっかく京都にいるのだから、だらりの帯を締めた舞妓さんや、黒紋付の芸妓さんを「生で」見てみたい。これ、「よそ者」にとって、ごく自然の衝動だと思う。しかし、それがエスカレートするとどうなるだろう。

京都で暮らし始めてまもなく、無知な私はカメラを携え、黒いダウンを着て祇園へ向かった。ネットで検索したら、複数の芸舞妓が写る画像がみつかったからだ。この日この時この場所に行けば、本物の芸舞妓さんに会えるのだろうか。

早朝から、すでに祇園の花見小路には黒山の人だかりができていた。後からやってきた私が入る隙間などない。もちろん後列にいては何も見えない。背が低い自分が恨めしい。ああ、脚立が欲しい――。

場所は「一力(いちりき)」という老舗のお茶屋さん前。どうやら、入っていく人と、出てくる人とを、「待ち伏せ」しているらしい。コンサート前後の楽屋口前の光景と少し似ている。違うのは、ほぼ全員、一眼レフを持っていることだ。しかも、「一目見られれば幸せ」を越えて、殺気立っているのである。

集結しているのは、「アイドル追っかけ馴れの果て」風の、カメラおじさん、おじいさん、そしておばあさんたちである。早朝からやってきて、ベストポジションをキープしている。時折、青いユニフォームの京都府警の警官がピピピと笛をならす。前のめりになる彼らを規制するため、自動車が通行できるようにするためである。

そのとき、誰かが被写体に気づき、カメラを構えた。それに連鎖反応して「追っかけ馴れの果て」軍団が、一斉にファインダーを覗く――。

その先にいるのは、美しい芸舞妓たちである。1人ではない。青、黄、朱、黄緑、桃、紫、黒。色とりどりの和服姿の女性たちが、8名ほど歩いてくる。だらりの帯を締めた舞妓さんもいる。お母さん、芸妓さん、仕込み(見習い)ちゃんもいる。髷(まげ)にかんざしが揺れている。裾から見える赤い襦袢にはっとさせられる。そこはかとなく白粉(おしろい)の匂いがする艶っぽいグループが、こちらに向かって歩いてくるではないか。パシャパシャパシャとシャッター音が続いたと思ったら、「一力」と書かれた茶色の暖簾をくぐって、彼女たちは中に消えていった。

撮影/秋尾沙戸子