本当にあった、ヤバい都知事選…「幽霊候補事件」の全貌

橋本勝とは何者か…?

1963年、都知事選の怪

米大統領選は、トランプ氏が敗北を認めないまま、投票日から1ヵ月以上が経った。

政権の移行手続きは進んでいるが、トランプ支持者の抗議が収まる様子はない。日本人は対岸の火事のように眺めているが、選挙に珍事は付き物だ。もちろん日本も例外ではない。

中でも'63年の都知事選は奇怪だった。「橋本勝」を名乗る候補者の選挙公報を見てみよう。

「青少年非行防止のため女の人造人間を数万体造って東京都周辺にその部落を造り青年のエネルギーの発散場所を造ってやる」

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とんでもない政策だが、人々を驚かせたのは、それだけではなかった。

都選挙管理委員会が「橋本勝」の立候補資格を審査すべく、本籍地の大阪市福島区役所に問い合わせたところ、橋本はすでに死亡しているという回答が返ってきたのだ。

橋本勝は幽霊なのか、そうでなければいったい何者なのか、新聞紙上は大いに賑わった。当の「橋本」本人に真相を問うも「これは自分を陥れる謀略だ」と、調査結果を否定するだけ。

そこで都選挙管理委員会は、投票日当日までに被選挙権を有する者であることを証明しない限り、「橋本勝」への投票は無効票とすると通知した。

結局、「橋本」は証明できず、投票はすべて無効票となってしまった。

実はこの騒動には裏があった。この選挙は、自民党の推す現職の東龍太郎と、野党統一候補の阪本勝の一騎打ちの様相であった。そこで、右翼系泡沫候補たちが阪本勝陣営へさまざまな選挙妨害を行ったのだが、そのひとつが「幽霊候補事件」だったのである。

野党統一候補の「阪本勝」と「橋本勝」はたったの一字違い。有権者の誤認を誘い、票を分散させようとしたのだ。結果、現職の東龍太郎が圧勝した。しかし、選挙中の妨害や不正は国会で大きな問題となった。

一方、「橋本勝」は逮捕され、禁固1年の刑が下った。

とはいえ、最後まで自分は「橋本勝」であると言い張り、正体不明のまま、歴史の闇へと消えてしまったのだった。(羽)

『週刊現代』2020年12月12・19日号より