『幸せになるためのイタリア語講座』(2000)、『17歳の肖像』(2009)、『ワン・デイ 23年のラブストーリー』などロマンチックでユーモラスなラブストーリーから、結婚、仕事、子育て、介護など女性の一生をあたたかな目線で映し出すロネ・シェルフィグ監督。デンマーク出身で、世界を股にかけて活躍する第一級の映画監督である。

ロネ・シェルフィグ監督〔PHOTO〕Getty Images

そんな監督自身が「世界一多様で、大好きな都会」と語る、ニューヨーク・マンハッタンを舞台に紡がれた話題作『ニューヨーク 親切なロシア料理店』が12月11日に公開。専業主婦クララと未婚女性アリスという対照的な女性2人と、彼女たちをとりまく人々をハートフルに描いた群像劇だ。

思わずクスクスと忍び笑いをしてしまうコミカルな場面が散りばめられた本作のテーマは「希望」と「優しさ」だが、実は、「女性への暴力」というダークなリアリティも描いている。内閣府の調査(※)によると、日本でも既婚女性のおよそ3人に1人がDVの被害を受けたことがあるという。ロネ・シェルフィグ監督への取材をもとに、本作が訴えかける、社会の女性に対する暴力性について考えてみたい。

DVは少しずつ始まる

ニューヨークのマンハッタンで創業100年を超える老舗ロシア料理店「ウィンター・パレス」。経営が傾くこの店に、なにやらワケありの男、マーク(タハール・ラヒム)がマネージャーとして雇われる。そんな店の常連には、救命病棟で働く看護師、アリス(アンドレア・ライズボロー)がいる。看護師として激務をこなしながら休みの日までボランティアに勤しんでいる天使のような女性だ。

ある日、マークは自分の料理店で無銭飲食をしようとしている若い女性を見つける。警察官のDV夫から逃れるために、2人の幼い息子を連れて、ニューヨーク州郊外からマンハッタンへ家出してきたクララ(ゾーイ・カザン)だ。クララの事情を知った、ウィンター・パレスに集う個性的な面々は、彼女に救いの手を差し伸べる。いつしか惹かれ合うマークとクララ。だがそこに、クララのDV夫が現れて……というのがストーリー。

『ニューヨーク 親切なロシア料理店』より

ビロードのカーテン、重厚な絨毯、マホガニー製の家具やピアノ、至るところに置かれた彫刻、煌びやかなシャンデリア……柔らかな赤茶色で統一されたアンティークのインテリアに囲まれた優美なウィンター・パレス。他にも、グランドセントラル駅やNY公共図書館の優雅で壮麗な建築美を余すこと映し出した本作に流れるトーンは、非常にロマンチックだ。
そんな中、夫のDVから逃れて車中で暮らし、デパートで服を万引きしながら無料食堂のスープキッチンで餓えしのぐ 女性と子供の貧困が“さりげなく”描かれている。一見すると通り過ぎてしまいそうなその風景が、社会問題のリアリティを感じさせる。

夫が警察官なので、警察にDVを通報できず、身元の発覚を恐れて公的支援も受けられない母子。若く結婚して以来、ずっと専業主婦だったクララには自分のクレジットカードどころか現金もないのだ。

※内閣府「男女間における暴力に関する調査(平成29年)」より