中国で刊行された簡体字版「中国的歴史」全10巻(第11・12巻は未訳)

なぜ中国人留学生は、日本人から「中国の歴史」を学ぶのか

ケンカをしながら語り合えるのが中国
古代文明から現代の経済発展までを描いた「中国の歴史」全12巻が、10月から講談社学術文庫で刊行されました。2004年から05年にハードカバー版で刊行されたこのシリーズは、中国・台湾でも翻訳出版され、累計部数は150万部に達しています。壮大な中国通史の何が人々をひきつけるのか、今の中国を読み解くカギをどう歴史に求めるべきか。シリーズの編集委員をつとめた鶴間和幸氏(中国古代史)と、執筆者の一人である天児慧氏(現代中国論)に語っていただきました。
 

なぜ、中国でウケたのか?

鶴間 天児先生がこのシリーズで執筆されたのは、現代中国をとりあげた第11巻『巨龍の胎動』ですが、刊行から16年たって、もはや胎動ではなく、まさに巨龍が世界の中心になりつつあります

当時は、まさかこんなに早く中国が世界で大きな存在になるとは予想できませんでした。正直なところ、いまの中国の姿には驚いています。

天児 おっしゃるとおりで、これはわれわれのような外から中国を眺めている人間だけじゃなくて、中国の指導者自身がこの発展のスピードを想像していなかったのではないかと思いますね。

2002年の第16回中国共産党大会で、当時の江沢民総書記が2000年のGDP1兆ドルを2020年までに4倍増にすると言いましたが、いま中国のGDPは14兆ドルを超える勢いです。経済成長のスピードは目標の3倍以上で、おそらく中国の指導者たちも、こんな勢いで経済が成長していくとは思っていなかったはずです。

この経済成長とともに軍事力も拡大して世界の脅威になっているのですが、あまりにも急激に大きくなったために、どういう国のかたちを準備するべきかという発想が追いつかなかった。これがひとつ、今の中国の大きな問題としてあると思いますね。

経済発展が著しい中国(photo by gettyimages)

鶴間 しかし考えてみれば、これまでも中国はいろいろな時代において大きな存在でありつづけ、大きいゆえにさまざまな波乱の歴史を歩んできたわけです。ですから今後の中国の行方をうかがうためにも、過去の中国を振り返ることは大切だと思います。

そうした意味で今回文庫化された「中国の歴史」シリーズも意義があるわけですが、このシリーズをめぐって非常に興味深いのは、2014年に中国語版が刊行されると中国で爆発的に売れたことです。

これはまったく予想していなかったことで、じつは私の担当する第3巻が刊行された当時、学界の偉い先生から「キミの書く後漢史はちょっと問題だよ」などと批判されたりもしたんですね。ところが、のちに中国から、とてもおもしろいという好意的な声がたくさん届くようになって、これはいったいなぜだろうと思ったわけです。

中国で刊行された簡体字版「中国的歴史」は全10巻(第11・12巻は未訳)。本文は横組み。企画・編集=理想国(北京)、発行=広西師範大学出版社

天児 全12巻中、私の書いた現代中国の巻は、やはりというべきか、中国本土では刊行されなかったんですが(笑)、このシリーズは非常に内容が豊富で、それもいろいろな角度から多様な解釈ができるようになっています。

そういう日本でなされたひとつの成果を通じて、中国人が自国の歴史を知るというのは大きな意義があると思いますね。

鶴間 このシリーズから自国の誇らしい栄光の歴史を知ろうとしても、それはあまり期待できないけれども、それとはまた違った歴史が語られていて、それがかえって中国の人々にとって新鮮だった。

私はそういうふうに受けとめていますが、逆にいえば、中国にはこういう多様な角度からとらえて豊富な内容を含んだ歴史書がこれまでなかったのでしょう。歴代王朝ごとの概説が書かれているだけの本は、やはり面白みがない。

このシリーズはそうした中国の既存の概説史にはない意外性や豊富な内容があって、それが中国の人にとって新鮮だったのではないか。

中国の一般読者だけでなく政府関係者もこのシリーズに関心をもったようですね。自国の研究者の書いたものよりも、日本の研究者が書いた中国の歴史書のほうがよく読まれているのはなぜなのかと。