義父母の間に横たわる深い溝

しかしその後、たびたび実家に戻って話をするうち、義父は女性を蔑視するような人間ではないらしいとわかってきた。ある日実家の居間でテレビを見ていたら、Tという女性の学者が登場してコメントしていた。義父は苦虫を噛み潰したような顔で彼女の顔を見ていたが、そのうち「俺はこの人は嫌いなんだ。いつも男に喧嘩売ってるような口調だから」と感想を口にした。私はTがそれほど単純な男嫌いだとは考えていなかったので、軽い気持ちで「そうですか? 彼女は割と面白い柔軟な考え方をする人だと思いますよ。男性に食って掛かるように見えるのは、制作者側の意図をくんでのことじゃないでしょうか」と言った。

義父は黙っている。あれ、不興を買ったかなと顔を見ると、義父は驚いような顔をして私を見ている。
「へえ、Tはそんな一面があるのか」
なんと、義父は不愉快そうな様子もなく、私の感想を受け入れた。それからというもの、彼は私の話を拒絶することなく「ふんふん」と聞き、会話するようになった。

そこで初めて気づいた。義父は義母・トミ子に不満だったのだ。何を言っても反応がない。意見を求めても自分の意見を言わない。口を開けば文句ばかり。夫婦の会話が成り立たないことにフラストレーションを覚えていたのだ。

横暴で女性差別的な義父なのかと思ったら、話してみると違っていた…Photo by iStock

東京の家に帰る道すがら夫にその件を話すと、驚愕の事実が判明した。
「親父は、夫婦同伴ルールがある仕事関係のパーティーに出たとき、『とにかくお前は口を開くな。何を聞かれても、黙って笑ってろ』と言いつけたんだよ」。
なぜか。義母がその場にそぐわないことを言ったり人の感情を逆なでするような発言をたびたびするので、取引先の機嫌を損なうかもしれないと、義父は疑心暗鬼になっていたのだ。

夫に事情を聞くと、それはおふくろが頑固だからだよ、と言う。仕事がらみのパーティーでは、今どんな仕事をしていて、どんな人が出席するのか、妻にも大まかには知っておいてほしいと義父は考えていた。ところが、そういう「お勉強」を、義母ははっきり拒絶した。毎回、夫にくっついていくだけ。「社長の妻たるもの……」というイメージは、義父が勝手に作り上げていたものだから、それを押し付けられた義母は反発したわけだ。

義父は妻に秘書やホステスとしての役割を期待し、義母は、家事だけやって夫に養ってもらうことを期待していた。よくあるレベルの夫婦のすれ違いなのではと思ったが、実はもっと根の深い問題だった。義母の性質は、その後、家族関係や近所付き合いにも影を落とすことになる。

【次回は12月22日(火)公開予定です】