SDGsはグローバルな共通目標だけれど、国や地域によって課題は違います。それは経済的、社会的な格差だけでなく、伝統、文化、風土といった暮らしの環境にも影響されるもの。日本にフィットする持続可能な社会とは? 日本人の私たちができることは?

今回、注目したのは、日本でおそらく唯一、野生の麹菌からパンを作るパン屋〈タルマーリー〉。小さなパン屋から始まった「地域内循環」という大きな革命のお話です。

菌の声に耳を澄ませたら、
町に変化が生まれ始めた。

オーナーの渡邉格さんと麻里子さん。ふたりとも東京の生まれ育ちだが、田舎で暮らすのが夢だった。

鳥取県南東部にある智頭町。面積の93%を山林が占める緑豊かな町だ。5年前、この町に小さな革命が起こった。発端は渡邉格さんと麻里子さんが営むパン屋。イタルとマリコだから「タルマーリー」。店名の通り、二人三脚でパンの道を歩いてきた。

緑のただ中にある〈タルマーリー〉。古い保育園を格さんがDIYした。

31歳でパン職人の道へ入った格さん。東京のパン屋で修業を積むうち、パン生地の発酵に欠かせない「菌」に興味を持った。量産されるパンの多くは発酵にいわゆるイースト菌が使われている。これはパン作りに適した酵母を人工的に純粋培養したもの。素材や環境に影響を受けにくく、比較的簡単に生地を発酵させられる。

いっぽうの天然酵母は空気中に漂う多種多様な菌を増殖させたもの。その分、環境や素材によって発酵具合に違いが出るし、最悪、生地を腐敗させることもある。

一次発酵が終わったルヴァン酵母のカンパーニュの生地。同じ素材、酵母を使っても、気温や湿度によって毎回発酵の様子は違う。それこそが多様な菌が生きている証拠。

「菌には個性がって、あるものは酸味をもたらし、あるものは旨味や甘みをもたらす。その多様性があるからこそ野生の菌で作ったパンは奥深い香りや食味がするんです」