【子どもの貧困】女性作家が告発する、無視できないインドの現実

「インド」といえば、どんなイメージを思い浮かべますか?
まずは美味しいインドカレー
美容と健康なら、ヨガやアーユルヴェーダ
コロナ禍の前は、美しい「タージマハール宮殿」に観光で訪れた人もいるでしょう。
教育の分野では「0を発明した国」として知られていますし、近年では「IT大国」としても有名です。

2015年に経済成長率7.9%を記録し、2027年には人口が世界一になるだろうと予想されている「経済成長の国インド」。
しかし、それだけが本当の姿なのでしょうか。

 

経済成長の影で


世界では、5人に1人(3億8500万人)の子どもたちが、「極度にまずしい」、国際貧困ラインの生活をしています。(出典:日本ユニセフ(2020年1月)

国際貧困ラインとは、世界銀行が設定する貧困の指標の事。
1日あたりに使えるお金が、食事だけでなく、水、電気、住居や衣服、薬など、生活するのに必要なものすべて合わせて1.9米ドル(約200円)未満で生活しなければならない、「極貧状態」を指しています。

世界銀行の調査(2015年)によると、インドでは人口の約13%がこの国際貧困ラインの生活を強いられています。

貧しい暮らしを送る人たちにとって、インドの経済成長は無縁の話に過ぎません。そして、貧困のいちばんの被害者は、いつだって子どもたちなのです。

「見えない存在」にされる子どもたち


インド出身の女性作家、パドマ・ヴェンカトラマンによる児童文学『橋の上の子どもたち』(2020年11月刊)には、インドにおける子どもの貧困について、その厳しい現実が克明に描かれています。

 

<ストーリー>11歳の少女ヴィジが主人公。両親は、カーストの違いを越えて駆け落ち結婚したものの、父は暴力をふるい、病弱な母はそれを受けいれるしかない状態です。そんな家庭に見切りをつけ、障害を持つ姉・ラクを連れて街へと逃げるヴィジ。行くあてもないまま、ストリートチルドレンとして生きることになりますが……。

貧しい境遇の中、気丈に生きる少女ヴィジは、父親のDVから逃れるため、姉のラクと一緒に長距離バスに乗って街へでます。
しかし、運転手の男に目を付けられ、街についたとたん誘拐されそうに。そして、抵抗するヴィジに男が投げつけたのは、「うすよごれた下層カーストのガキが!」という言葉でした。

高いカーストにいる人たちは、下層カーストの人々に特段の関心を払うことはありません。子どもが顔にあざを作り、ぼろぼろの服を着ていても、たとえ誘拐されそうになっていても、救いの手を差し伸べる人は少ないのです。

都会で、ヴィジとラクは多くの人々とすれ違います。しかし、彼女たちの存在は、富める人々にとっては「見えない」も同然です。

「この短い時間で、今までの人生で会った人数よりたくさんの人々を見た。だけど、だれもあたしたちに気づかない。
視界には入ってるんだろう。
だけど、目に留まらないんだ。」

ヴィジの独白には、インド社会のひずみによって苦しむ、子どもたちの悲しい想いが込められています。

コロナ禍でみえたインド社会のひずみ


家もなく学校にも通えず、死と隣り合わせの生活をしている貧しい子どもたちを、行政は救ってくれません。物語の中で、ヴィジにようやく救いの手を差し伸べたのは、キリスト教の児童養護施設でした。

「経済成長」を旗印に掲げているインド政府ですが、貧困層への対応は後手に回っています。コロナ禍によって、2020年3月に実施されたインド全域が対象のロックダウンでは、それが如実に示されました。

ロックダウンの影響で、労働者たちは仕事と住居を失いました。交通機関が停止する中、徒歩で故郷に帰ることを余儀なくされ、炎天下を歩き続けたすえに命を落とす人が続出したのです。そのなかには、子どもたちも含まれていました。

子どもたちが大切に育てられる世界になることを願って


『橋の上のこどもたち』の著者、パドマ・ヴェンカトラマンさんは、インド、チェンナイ出身。
父方の祖父が法学者、母が弁護士という環境に生まれましたが、シングル家庭だったこともあり、経済的には厳しい子ども時代をすごしたそうです。

パドマさんの母は慈善活動に時間と労力をそそぎ、その影響をうけた彼女は、若い時からCWC(ザ・コンサーンド・フォー・ワーキング・チルドレン)という組織にかかわります。
CWCはノーベル平和賞に2012年から3年連続でノミネートされた、児童労働を憂慮するインドのNPO団体です。

19歳でアメリカに渡った後、大学で海洋学を専攻。卒業後は大学に勤務する傍ら、作家として活躍します。
著書『図書室からはじまる愛』(白水社刊)は2009年全米図書館協会「ヤングアダルトのためのベストブックス」に選出されているほか、『橋の上のこどもたち』はWNDB(書籍の多様性を求める会)による2020 The Walter Award (青少年部門)を受賞しました。

現在も、インドの学校や児童ホームを訪れているパドマさんは、本書のあとがきで、
「どこも良い取り組みをしていますが、それでもなお多くの子どもたちが問題に直面しています。理解不足、資金不足、思いやりの不足によって引き起こされる問題です。本作では実際に子どもたちが体験したことを、一人称の語りで描いています。」
と明かします。

また、
「この作品を書いているとき、アメリカにもひどい状態の子どもたちがいることに気がつきました。」
とも語っています。
餓えや貧困は、南アジアだけの問題ではなく、現在でも世界中の何億人という子どもや大人が直面する問題なのです。

本書のあとがきは、
「いつの日か、すべての子どもたちが大切に育てられる世界になることを願ってやみません。」
という、パドマさんからのメッセージで締めくくられています。

『橋の上の子どもたち』はインドだけでなく、欧米、そして日本でも無視できない問題となっている「子どもの貧困」について、私たちに訴えかける作品なのです。

 

『橋の上の子どもたち』
パドマ・ヴェンカトラマン/作
田中奈津子/訳

父親の暴力、それを受けいれる母。そんな家族からから逃れるために、障害を持つ姉とともに家を出た11歳の少女・ヴィジ。ホームレスとして生きのびるため、出会った仲間たちと共に、知恵と友情で道を開いていく。
インドを舞台とした喪失と再生の美しさと力強さに、心を揺さぶられずにはいられない。
WNDB(書籍の多様性を求める会)による2020 The Walter Award (青少年部門)受賞作品。

この記事は「インド・経済成長のウラで…ゴミのように扱われる「下層カースト」の過酷な現実」(文/佐藤大介)をもとに構成しました


構成/北澤智子

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