戦場のフェイク・ニュースが歴史学を変えた

マルク・ブロックとアナール学派の誕生
長野 壮一 プロフィール

「父さん、歴史が何の役に立つか説明して」

その後、歴史家として大成し、ソルボンヌ大学教授となったブロックは、第二次世界大戦の開始とともに再び銃を取る。大尉として北部戦線に配属されたブロックは、1940年5月にはダンケルク撤退戦にも参加している。

フランスの敗戦にともない、ブロックは対独レジスタンスの地下活動を開始する。

リヨンに拠点を置く秘密結社「フラン・ティルール」(自由射手)に参加したブロックは、1944年春、ゲシュタポにより捕縛される。6月16日未明、郊外の村外れに連行されたブロックは、27名の仲間とともに凶弾に斃れた。享年57歳。

ブロックは戦場で見出した虚偽の問題を終生忘れなかった。『王の奇跡』の着想の契機となった「ブレーメン」の挿話は、ドイツ占領下で書き進められた『歴史のための弁明』において、史料の信憑性にまつわる考察のなかで再び言及されることとなる。

ブロックは思索の人であると同時に、行動の人であった。読者の心を今も捉え続ける彼の魅力的な歴史叙述は、現代社会や人間の認知構造に関する強い問題意識に裏付けられたものだった。

「父さん、歴史が何の役に立つのか説明して」――息子が投げかけた素朴な問いが歴史家にとって持った意味は、このような文脈において理解されるべきなのである。

 
参考文献
Marc Bloch, L'histoire, la guerre, la résistance, éd. par Annette Becker et  Étienne Bloch, Paris, Gallimard, 2006.
Carol Fink, « Introduction. Marc Bloch and World War I », dans Marc Bloch, Memoires of war, 1914-15, Ithaca/London, Cornell University Press, 1980, p. 15-73.
Jacques Le Goff, « Préface », dans Marc Bloch, Les rois thaumaturges, Paris, Gallimard, 1983.
Christophe Prochasson et Anne Rasmussen, « Introduction. La guerre incertaine », dans Id., Vrai et faux dans la Grande Guerre, Paris, La Découverte, 2004, p. 9-32.
マルク・ブロック(井上泰男、渡邊昌美訳)『王の奇跡 : 王権の超自然的性格に関する研究特にフランスとイギリスの場合』刀水書房、1998年。
マルク・ブロック(松村剛訳)『歴史のための弁明 : 歴史家の仕事』岩波書店、2004年。
キャロル・フィンク(河原温訳)『マルク・ブロック : 歴史のなかの生涯』平凡社、1994年。
王寺賢太「マルク・ブロックの戦場 : 戦争経験と歴史的学知の変容」山室信一・岡田暁生・小関隆・藤原辰史編『現代の起点 第一次世界大戦 精神の変容』岩波書店、2014年。
二宮宏之『マルク・ブロックを読む』岩波書店、2016年。

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