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日本メディアの「オバマ回顧録」の翻訳、その訳文がはらむ「危険性」を考える

政治的衝突の火種になりかねない
鴻巣 友季子 プロフィール

まずは、赤字の部分。該当箇所はA pleasant if awkward fellow,だが、各社の訳文はこうなっていた。

共同通信 「感じは良いがやりにくい」
時事通信 「感じは良いが厄介な同僚」
NHK NEWS (該当部分なし)
TBS NEWS 「感じはいいがぎこちなかった」
鴻巣訳 「やりにくい面はあるものの感じの良い」

わたしもメディアが使っているのと同じ語をなるべく使うようにした。しかし各メディアと鴻巣の訳文の違いは重点の置き方の違いだ。各メディアはawkwardの訳語を後にもってきているのだ。だから、そちらが強調される。

鳩山由紀夫氏〔PHOTO〕Gettyimages
 

ここで「形容詞A+if+形容詞B」という英語の定型的フレーズの使い方を再確認しておきたい。このifは「もし~なら」ではなく、「~であっても」という譲歩の意味を表す。「~であっても」なので、意味の重点は、BではなくAにあることに留意したい。つまり、多少awkwardなところはあるがpleasant な人だよ、と言っているわけだ。いったん、pleasantとは逆の意味の語を挿入しながら、最終的にはひっくり返って、ポジティブ表現に着地するのである。

日本のメディアの翻訳はほぼすべて、これを「形容詞A+but+形容詞B」のように訳して、「AだけれどB」というふうにBに重点を置いていた。

些細なことに見えるかもしれないが、A+if+Bなのか、A+but+Bなのか、あるいはその語順によって、ニュアンスや意図が変わってくる。ちょっと不自然な例文だが、極力かんたんな語で順列組み合わせのように入れ替えてみますので見てください。

It is a new if small car. (小型だけど新車だからOKだよ、と言っている)
It is a small if new car. (新車かもしれないけど小さいね、と不満がある)
It is a small but new car. (小型だけど新車だからOKだよ、と言っている)
It is a new but small car. (新車かもしれないけど小さいね、と不満がある)

見てのとおり、A+if+BとA+but+Bは、語を入れ替えるとほぼ同じ意味になる。つまり、レトリックとしては正反対なので、A+if+Bと書いてあるのに、A+but+Bのように訳してしまったら、意味が真逆になる。

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