ウイルスは細菌にも感染する!細胞を乗っ取る「バクテリオファージ」とは何か?

応用によってDNA改変さえ可能に
更科 功 プロフィール

クリスパー・キャスシステム

細菌が過去に感染したファージに再び感染した場合は、クリスパー・キャスシステムによって、そのファージのDNAを分解することができる。そのため、同じ種類のファージに再び感染しても、細菌が死ぬことはほとんどない。

クリスパーというのは、多くの細菌が持っている、DNAの領域の名前である。クリスパーの中には、リピート配列とスペーサー配列が交互に並んでいる。

【図】クリスパー領域リピート配列とスペーサー配列が交互に並んでいるクリスパー領域

すべてのリピート配列は同一で、その塩基配列はほぼ回文になっている。回文というのは「たけやぶやけた」のような、左から読んでも右から読んでも同じ文のことだ。DNAの場合は二本鎖で、かつA(アデニン)はT(チミン)と、G(グアニン)はC(シトシン)と塩基対を形成するので、たとえば塩基配列の回文は以下のようなものになる。

ATGTGCACAT
TACACGTGTA

いっぽう、それぞれのスペーサー配列は、ウイルスのDNAの塩基配列と一致しており、細菌が過去に感染したウイルスのDNAの一部を取り込んだものと考えらえている。

細菌はウイルスに感染すると、そのウイルスのDNAの一部をスペーサー配列としてクリスパーに取り込む。すると、それ以降は、取り込んだスペーサー配列と同じ塩基配列を持つウイルスに感染しても、ただちにそのウイルスのDNAを分解できるようになる。つまり、一度感染したウイルスは、再び感染しても、細菌の中で増殖することはできないのである。

いっぽう、キャスというのは、細菌のDNAのクリスパー領域の近くに存在する遺伝子群、およびそれらから作られたタンパク質のことである。クリスパー・キャスシステムは、このキャスタンパク質と、クリスパーDNAから転写されたクリスパーRNAが協力することによって働く。

クリスパー・キャスシステムは、キャスタンパク質とクリスパーRNAが協力して働く

キャスタンパク質にはいくつかの種類があり、たとえばキャス3(スリー)はウイルスのDNAを細かく切り刻むが、キャス9(ナイン)はウイルスのDNAを1ヶ所だけ切る。ここではキャス9について説明しよう。

ウイルスのDNAが細菌の中に入ってくると、まずキャス9がDNAの二本鎖をこじ開ける。そしてクリスパーRNAが、そのうちの1本に結合する。それからキャス9が、ウイルスDNAを2本とも切断するのである。

ちなみに、このキャス9を使った細菌の免疫システムを、DNAの改変に応用した技術を、「クリスパー・キャス9」という。今年(2020年)のノーベル化学賞は、このクリスパー・キャス9というゲノム編集技術の基礎研究を行ったアメリカのカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ博士とドイツのマックス・プランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ博士に贈られた。

ジェニファー・ダウドナ博士(左)とのエマニュエル・シャルパンティエ博士。2016年ロレアル - ユネスコ女性科学賞授賞式で photo by getttyimages

実際の細菌の免疫システムでは、クリスパーRNAが2種類必要である。しかし、クリスパー・キャス9では、一方のRNAの末端ともう一方のRNAの先端を人工的につなぎ合わせたRNA(ガイドRNAと呼ばれる)を作る。実際の操作では、2本のRNAを扱うより1本のRNAを扱う方が楽だからだ。

このガイドRNAが持っている情報は、本来はウイルスの塩基配列だが、これを他の生物、たとえば動物の塩基配列に変えれば、動物のDNAの改変に使えることになる。そして、ヒトの塩基配列に変えれば、ヒトのDNAを改変できてしまうのである。

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